❁✿✾ 落 花 流 水 小 噺 ✾✿❁︎/イケメン戦国
第9章 龍は一寸にして昇天の気あり
二人は視線を交わし合うとおもむろに頷き、足を踏み出す。賊の男が踏みしめた雪沓の跡と、適度な間隔でぽつりぽつりと落下している南天の実を目印に、凪と光秀は子供達の救出作戦へと本格的に突入したのだった。
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───凪と光秀が尾行を開始してしばらく、山賊の根城にて。
もうここまでくれば目印の南天は不要だろう。そう断じた光臣が最後に落とした赤い実を一瞥し、そうして自身を担ぐ男へ気取られぬよう視線を巡らせた。無人となった山小屋を勝手に拝借したのだろう事が窺える平屋の周りには、吹雪の際などに直接建物が雪風へ晒されぬよう配慮して作られた、背の高い竹の塀がぐるりと巡らされている。
裏に回れば出入り口はもうひとつあるのだろうが、山賊の男は正面からそこへと立ち入った。冬という季節柄と、集落の者達が報復を恐れて密告しないとでも高をくくっているのか、周辺に見張りはいない。
(呑気な事だ。今ここへ、あの父上が向かっているとも知らず)
さすがに警戒が足りないのでは、と思わなくもないが、子供達を救い出すつもりでいる側としては好都合というものである。下手に首を動かす事が出来ない為、完璧に周囲を探る事は出来ないものの、平屋の横に渡り廊下で繋がった倉庫のような建物がある事に気付いた。子供達を押し込めるならば、あそこで十分か、そんな事を考えていると突如光臣を担いでいる男が尻をぱしん、と軽く叩く。
「おら!いつまで気失ってやがる……!いい加減起きろ!」
(こいつ……!やはり母上に囮役をやらせず正解だった。こんな事、母上がされたと父上が知ればこの男、容易に首が飛ぶぞ)
かく言う自分も、齢(よわい)十三にもなって童の如く尻を叩かれた事実は遺憾であった。一瞬父によく似た柳眉を顰めて腹立たしそうな顔を浮かべるも、すぐに意識を切り替える。
「っ……こ、ここは……!?私は一体……」
「しばらくはここがお前の家だ。心配するな、ちゃんと俺が高値で売ってやるからよお」
「そんな……っ」