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❁✿✾ 落 花 流 水 小 噺 ✾✿❁︎/イケメン戦国

第9章 龍は一寸にして昇天の気あり



ふるふると小動物の如く身を震わせ、男が下卑た笑いを浮かべた瞬間、その恐怖と絶望が最高潮へ達したかのように一度大袈裟なまでに肩を跳ねさせると、ふいに脱力したよう倒れ込む。

「恐怖で気を失ったのか。まあちょうどいい。こんな上玉にゃ青痣ひとつつけるのですら勿体ねえ。……にしても、これは高く売れるぞ。あいつが今日隠したとかいう餓鬼より良い値がつく」

雪の上へぱったりと意識を失った────ように見せかけた光臣を、男がまじまじと値踏みするように見た。やがてその身を俵担ぎのようにして抱え上げ、歩き出し始める。

(今日隠した餓鬼って……きっと鴇くんの事だよね。人をお金としか見てないなんて、許せない……)

尾行とは言えど、すぐに凪と光秀が飛び出して追う訳にもいかない。幸い今の季節は冬であり、大地を歩けば明確な跡が残る。気を失った風に見せかけた光臣を攫った山賊の姿がすっかり見えなくなった頃、光秀は凪を促してそっと立ち上がった。周囲を油断なく警戒し、賊の仲間が近くにいない事を確認した後で彼女へと手を差し出す。

「さて、賊に己の根城まで案内してもらうとしよう」
「……でも、臣くんを攫った賊の人、全然見えなくなっちゃいましたけど……足跡で追うんですか?」
「それもあるが……見てみるといい」

凪の疑問を解消するよう、光秀が薄く笑んで視線を雪原へ流した。つられるように彼女もまた意識を向けると、少し離れたところに何か小さなものが一定の間隔で落ちている事に気付く。

「あれってもしかして……!?」
「先程、臣に摘ませていた南天の実だ。仔狐の背丈ならば俵担ぎは確実だろうと予測の上、袖へ隠し持つよう予め伝えておいた」
「なるほど……!南天ならこの時期、雪の上に落ちててもおかしくないですしね」
「ああ、鵯(ひよどり)が啄んで落とす事も多いからな」

春から秋にかけては花の蜜などを吸っている鵯は、冬になると木の実類が主な餌となる。目印を落とす間隔にもよるが、木の傍などへ落下している分には賊にも訝しまれないという策だ。

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