❁✿✾ 落 花 流 水 小 噺 ✾✿❁︎/イケメン戦国
第1章 武将と五百年後ノープランツアー 前
片手を腰にあてがい、軽く溜息を零した彼方へ口角を上げた光秀を見て、凪の耳朶がほんのりと紅く染まる。三人のやり取り…否、ほとんど凪しか視界に入れていなかった家康は、普段とは異なり、左に流した髪が緩く巻かれている様を見て内心で小さく零した。
(またくるくるしてる。…かわい)
「よーし、じゃあ全員揃ったところで、早速出発しよっか!」
「彼方さん、最初は何処へ案内する?」
「初めは現代に慣れてもらう目的で、適当に町を見て歩く感じでいいかなーって」
「いいね。ただ京都ってただでさえ観光客が多いから、人酔いとかしなきゃいいけど…」
家康の心の声は当然聞こえる事もなく、彼方が揃った面々に向けて声を上げる。ふと、佐助が至極当然とも言える疑問を投げた。確かにノープランツアーと称したものの、最低限の行き先くらいは定めておきたい。歴史上の人物とあって、あまり本人達の歴史に触れるような場所は避けて通った方が良いのでは、というのが現代人組の見解だ。当然彼方も例に漏れず、特に光秀と凪に配慮した形で、帰還時のワームホール発生までは本能寺跡や近辺には近付かないでおこうと考えていた。京都はただ町を歩いて居るだけでも十分に楽しい。それでなくとも、町中は武将達の知らないもので溢れている。そういったものと触れ合いつつ、ひとまずは肩慣らしの感覚で、町を適当に散策しようと思っていたのである。
「人酔いか…確かにそれもそうだね。でもまあ、そこも五百年後ならではって事で、思い出にはなると思う」
「あ…!思い出といえば!散策ついでに、一箇所だけ絶対行きたい場所があるから、そこは案内させてね」
「うん?」
凪の懸念を佐助が拭った後、彼方が思い起こしたような声を上げた。適当な散策以外に、立ち寄りたい場所があると主張する彼女を見て、不思議そうに双眼を瞬かせた凪は、実に愉しげに笑う友人を前に、そっと首を傾げたのだった。
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「すみませーん、一緒に写真いいですか?」
「いや、悪い。今は連れと一緒に居るから、気持ちは有り難いけど遠慮させて貰う。わざわざ声をかけてくれたのに、ごめんな」