❁✿✾ 落 花 流 水 小 噺 ✾✿❁︎/イケメン戦国
第9章 龍は一寸にして昇天の気あり
(なるほど、確かに営業とかでも契約実績に基づいて基本給へ色々上乗せされるし、そういう認識なのかな。仲介してる品物が人間っていうのが許せないけど)
そもそも秩序の無いならず者達は、平等に配当を分けるなどという意識を持ち合わせてはいない。より売れそうな子供を攫った方が自らの益になる以上、光秀が蒔いた【器量良しの女盛り】な餌を見逃す手はないという事なのだろう。凪が納得しつつも内心で複雑な思いと怒りに表情を引き締めた後、ふと光秀を見上げる。
「そこまで山賊達の行動や思惑を読めるなんて、さすがですね」
「悪人の思考を読むのは得意分野だからな」
凪の感心したような科白に対し、光秀がくすりと小さく笑みを零した。長い人差し指でとんとん、と自らのこめかみ辺りを指してみせた男に対し、彼女が眉尻を下げて苦笑する。光秀が言うと、本当に彼の言う通りに事が動きそうな気さえするのだから不思議だ。
山賊達が動く要素は十分にある。後は垂らした釣り糸と釣り針に獲物がかかるのを待つだけ────些か緊張した面持ちで南天を摘む光臣の様子を窺っていると、ふと少年(今は美少女だが)に近付く一人の男が現れる。
(あっ……!)
「思っていた以上にお早いお出ましだ」
男は例の行商人達と同じ簑笠(みのがさ)をまとっていた。足音を潜めて南天を摘む光臣へ近付いているが、おそらく少年は既に敵の訪れを察している事だろう。職人が何とか上手いこと見張りの山賊を焚き付ける事に成功したらしく、怪しい男は布を被る光臣の顔を見ようとその肩へ手を伸ばす。
「っ、きゃあ!」
突如背後から手をかけられた事に、光臣が絶妙な具合で高い声を漏らしながら振り向いた。その瞬間、ばさりと被っていた布が真っ白な雪へふわりと落ちる。きらきらと輝く長い銀糸を揺らし、光臣が男を映すとその金色の双眸に怯えの色を灯した。
一瞬虚を衝かれた様子で惚(ほう)けた表情をした男は、光臣の完璧たる美少女っぷりにさぞや驚いたのだろう。白い雪の上へ赤い南天の実が籠ごと散らばり、その隙に光臣が男から距離を取ろうとする。