❁✿✾ 落 花 流 水 小 噺 ✾✿❁︎/イケメン戦国
第9章 龍は一寸にして昇天の気あり
実際に摘んではいるが、この行動も策の一環だ。例え布を被っていても背に流れる美しい銀糸が陽の光をきらりと反射させ、幻想的な美しさを演出している。
「あの職人さん、凄く怯えてましたけど……ちゃんと言えたか心配です。奥さんもそう言ってましたし」
「臆病だからこそ、説得力があるというものだ。奥方殿は性格上、小狡い事を言い出しそうにない」
「うーん、確かに……」
此度、光秀が立てた筋書きはこうだ。領主への税と山賊達へ納める税、重く課せられた二重税に困窮した職人の旦那は、妻に内緒で山賊の男達へ人目を忍びつつ交渉へ向かう。町へ奉公に出ていた姪が、里帰りの暇(いとま)を貰って両親の元へ帰る事となったが、その途中でこの集落へ立ち寄り、叔父が仕立てる細工物を土産として買いに訪れた。その姪っ子を【隠させる】代わりに、どうか税を軽くして欲しい────姪は町でも気立ての良い器量良しと有名で、未婚の十三歳。これから女の盛りを迎える時期だから、きっと良い値で売れる、と。
これからその姪を、ひと気の少ない集落の外れへ南天を摘ませるという口実で向かわせる。そこで、姪をどうか隠してくれないか────光秀の指示通り美少女に扮した光臣は、偽の叔父である職人の旦那に言われたという体(てい)で南天を摘んでいるという訳だ。
「でも、女の子を攫う手助けをする代わりに税を軽くするなんて、酷い事を沢山して来てる山賊達がそんな要求を呑むんですか?」
「おそらく口約束程度では素知らぬ振りで、通常通り税を搾り取られるだろうな」
「えっ……!?じゃ、じゃあ臣くんも攫われない事もあるんじゃ……」
「いや、その可能性は極めて低い」
凪が案じるように眉尻を下げると、光秀が首を緩く左右へ振った。ほとんど断定的とも言っていい彼の反応に目を瞬かせ、凪が無言のままに眼差しで答えを求める。
「人買いの斡旋(あっせん)、つまり仲立ちする者達は基本的に売値の分配を歩合と定めている場合が多い。要するに、高く売れそうな者を攫った方がその者の稼ぎになるという訳だ」