❁✿✾ 落 花 流 水 小 噺 ✾✿❁︎/イケメン戦国
第9章 龍は一寸にして昇天の気あり
感心した風にまじまじと、方やは実に面白そうに眺めている視線の先には一人の美少女が立っていた。格好こそ職人の女房から借りた庶民的な小袖だが、それがいっそ霞んで気にならなくなる程の美貌は、まさに天女の如し。
普段は結い上げている銀糸を下ろして背に流し、涼やかな金色の眸と形の良い唇には控えめな紅。少年の割りにしっかりと作られている基礎筋肉の硬さが分からぬよう、柔らかい襦袢を軽く重ねて所作を洗練させれば、光臣は何処からどう見ても美しい少女であった。
なまじ光秀に顔立ちが似ている事も手伝い、仄かに漂う妖艶さはそこらの男を軽く掌で転がしていそうな不思議な魅力を漂わせている。
「心配するな、余程の事がない限り童わっぱと見抜かれはしない」
「それこそ複雑な褒め言葉なのですが……」
「小娘ならば襲われた拍子に気を失っても、そうそう訝しまれる事はないからな」
何かと都合がいい、そう言って光秀が口角を緩く持ち上げた様を、美少女に扮した光臣が半眼で見た。小さな子供ならば袋にでも詰めて攫って来れるだろうが、光臣程の歳だと確実に気を失わされると予想した光秀は、我が子を案じる妻の為にも賊に手を出されない方法として、性別を偽る事────即ち女装を提案したのである。
「でも、その理由だと臣くんじゃなくて私でも……と思ったけど、さすがに少女に扮するのは無理があり過ぎですね……」
光鴇のみならず、光臣までも危険に晒したくないという親心から発した科白だが、そもそもの問題、如何に凪が同年代から見て童顔だったとして、少女と名乗るには無理がある。自分で言っておきながら、二重の意味で落ち込んだ凪が肩をがっくりと落とした。そんな妻の姿を見ると、隣に立つ光秀が彼女の頭を掌でするりと優しく撫でる。
「今も昔も、変わらずお前は娘のように愛らしいが……だからこそ愛しい妻をいっときでも他の男へ預けるなど看過出来ない」
「光秀さん……」