❁✿✾ 落 花 流 水 小 噺 ✾✿❁︎/イケメン戦国
第9章 龍は一寸にして昇天の気あり
───子供達が逃げ出す為の行動を開始する少々前、集落の外れ。
子供達が捕らわれているであろう山賊の根城を突き止める為、光臣を敢えて攫わせる策を取る事とした光秀と凪は、集落の中でもひと気が少ないとされている林の中へと身を潜ませていた。
二人が油断なく視線を向ける先、やや光秀らから距離をあけたところには、一般的に庶民がまとっている少しばかり粗雑な小袖をまとう、一人の少女が立っている。そもそもこの状況は一体何なのか────話は少々遡る。
自分も光鴇救出に協力したい!とそう強く切り出した凪に対し、最初こそ危険だと言い聞かせていた光秀が折れたのは、逃げ出して来た子供達を誘導して、山賊の根城から遠ざけるくらいの事は出来ます、と真摯に彼女が訴えて来たからであった。危険な真似はしない、何かあればすぐに自身を優先する事、基本的には根城の外で待機している事を条件として、仕方ないと言わんばかりに同行を許された凪へ、光秀がやれやれと吐息を零したのは言うまでもない。
そもそも凪が大人しく宿で待っているような性格でない事は分かっていた為、光秀もこの展開を予想していない訳ではなかった。本音を言えば凪には安全な場所にいて欲しいところだが、光鴇が攫われた原因は自身にあると思っている彼女の気を少しでも軽くしてやる為にも、是と頷く事はある意味必然だったと言えよう。
そんな訳で、光鴇救出には囮役の光臣、そして尾行、突入役として光秀、子供達の保護役として凪が赴く事で決まった。そうと決まれば早速支度に取り掛かるとしよう、そう言った光秀が職人夫婦へ声をかけたのは、余っている女物の小袖を貸して欲しい、という謎の一言であった。
「父上の事ですから、何か御考えあってとは承知の上ですが……何故このような格好を?」
「思いの外似合っているぞ、臣」
「光秀さんに似て綺麗な顔立ちだとは思ってたけど、まさか女の子にもなれるなんて……」
「決しておなごにはなっていません……!」