❁✿✾ 落 花 流 水 小 噺 ✾✿❁︎/イケメン戦国
第9章 龍は一寸にして昇天の気あり
「みんなでいっしょ、がんばれば、できる!」
「……おっかあに、あえるの?」
「むらにかえれる……?」
「みんなでいっしょ、にげる!」
自信を覗かせて言い切る様には正直、何処にも根拠などありはしない。しかし、目を赤く腫らせた光鴇の向こう見ずとも思えるその発言は、現状に諦めを抱いて嘆くばかりであった他の子供達へも希望と勇気を生み出した。泣き止み始めた子供達の姿を目にし、少年は息を呑む。
年長という事で中々買い手がつかず、しばらくこの倉庫内で売り出される子供、あるいは新しく隠されて来る子供達を見て来たが、光鴇のように自ら前向きな事を言い出した者は誰一人としていない。子供が束になったからといって、大人複数人に勝てる可能性は極めて低い。現実的に考えればそう分かっているというのに、何故か少年自身も薄っすらとした希望を抱き始めている事に、彼自身が内心驚嘆する。
「……でも、本当に逃げられるかもしれない」
「ん?」
「お前があの明智光秀の子供で、この辺りへ一緒に来てたのがその殿様本人だって言うなら……例え嫡男じゃなくても、絶対探しに来る筈だ」
「……!ちちうえが、たすけにきてくれる……?」
医療が発展しておらず、疫病や栄養失調、あるいは諍いに巻き込まれるなど、様々な理由も相俟って戦国時代における子供の死亡率は極めて高い。光鴇は次男であり、事実上跡継ぎとなる嫡子ではないが、光秀がそもそも自らの子を見捨てる筈がないのだ。
八方塞がりだとばかり思っていた状況の中でも、小さく細い光は確かにこの薄暗い倉庫内へ射していた。少年の指摘は光鴇にとってまさに目から鱗であり、しかし音に出して呟いた瞬間、一気に現実味を帯びて幼子の心をますます鼓舞する。
(ちちうえ、むかえきてくれる……!)
大きな金色の猫目は先程泣いたその名残で若干潤んではいたが、希望にきらきらと輝いていた。いまいち状況を理解出来ていない他の子供達も、暗く淀んでいた表情から一変、生気に満ちた顔つきへと変化している。