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❁✿✾ 落 花 流 水 小 噺 ✾✿❁︎/イケメン戦国

第9章 龍は一寸にして昇天の気あり



「ちょっと前までは布おむつしてはいはいしてたと思ったのに、立派なお兄ちゃんになったんだね、臣くん」
「それはさすがに遡り過ぎでは……」

凪の優しいその声を耳にし、光臣が恥ずかしさ故か軽く身じろいだ。妻と息子のやり取りを目にし、それまで双眸に剣呑な色を灯していた光秀が、ふと目元を和らげた。やがて吐息に小さく笑いを紛れさせた後、凪の胸に抱かれている少年の銀糸をくしゃりと乱す。

「親にとって、子の成長とはすべて昨日の事のように思い出せるものだからな」
「わっ……!?」

いつもならここで、「あにうえばっかり、ずるい!ときもよしよし!」と小さな仔栗鼠が自己主張しつつ、父や母の足元へまとわりついて来るのだろうが。そう思ったのは光秀だけでなく、凪や光臣も同じだったらしい。やがて、凪から腕を解かれた息子の姿を、光秀が真摯な眼差しに映す。

「臣、危険な真似は決してするな。何かあったら無茶をせず、己の身を優先しろ」
「……分かりました。身の丈に合った行動を心がけます」
「臣くん、本当に気をつけてね」
「大丈夫です。俺が攫われたとしても、その後を父上が尾行しているのなら安心ですから」

光秀と凪からの言葉へそれぞれ頷き、光臣が自信を覗かせた笑みを浮かべた。少年と呼べる歳の頃の童(わっぱ)にしては切れ長なそれを眇める様は、何処か自らを彷彿とさせるものがある。やれやれ、と内心で微かに嘆息を漏らした光秀は、凪をどのようにして残るよう言い含めるかと思考を回し、肩を竦めたのだった。



───山賊の根城、倉庫内にて。

「……もうおうち、かえれない……?」

隠された子供達の内、年長であろう少年が口にしたそれを反芻した光鴇が、一瞬思考を止めたかの如く呆然と麻袋の上で立ち尽くした。大きな金色の猫目を瞠り、ただ二の句も紡げぬままで少年を見つめる。

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