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❁✿✾ 落 花 流 水 小 噺 ✾✿❁︎/イケメン戦国

第9章 龍は一寸にして昇天の気あり



「暮六つ(十八時)頃だよ……その頃には、この辺りはもう真っ暗さ」
「お聞きの通り、悠長にしている暇はありません。夜になれば冷え込みも酷くなるし、賊達が攫った子へ丁重に暖を取らせてくれるとは限らないと思います」
「っ、それは……」

光臣の主張は正当性が高い。日頃光秀の動きや考え方をよく学んでいるとあり、的確な情報判断力が優れている事は親として喜ばしい。しかし凪が光臣を案じる心と、また光秀自身が子を巻き込みたくないという思いが相俟って、容易にその策へ是と頷く事は出来なかった。

ぐっと言葉を呑み込んだ凪が、眸をゆらゆらと揺らがす。何処かで心細く寒い思いをしている幼い光鴇を思うと、居ても立っても居られないという気持ちもまた、親としての本懐であった。

「父上も仰っていた通り、売り物である子供に無体な真似はしない筈です。それに、俺が連中の根城の内側へ入り込む事で子らの居場所を突き止め、上手く助け出す事が出来るかもしれません。それに、何より……」

光秀と凪へ真摯に訴えかけた後、光臣が一度言葉を切った。そうして両手でぐっと拳を強く握りしめ、建前をすべて取り払った様子で告げる。

「俺は鴇の兄です。兄なら、一刻も早く弟を助けたいと思うのは当然でしょう」

それは、光臣の紛う事なき本心であった。光鴇が攫われた事に対し、自身を責めているのは凪や光秀だけではない。兄の光臣とて、傍にいなかった事を悔やんだのだ。童(わっぱ)だからと危険から遠ざけようとしていたが、小さな弟を思う兄の心をどうして親が止められよう。光秀の羽織りを掴んでいた、凪の震える手が静かに離れていった。そうして光臣をそっと抱き寄せると、自身の胸に抱く。

「は、母上……!?」

年頃という事もあってか、母の胸に抱かれた光臣は些か気恥ずかしそうだ。その優しい性根故に、しかし嫌がる素振りは見せる事なく、ただされるがままになっていた。ぽんぽん、とまるで幼子をあやすような手付きで光臣の背を何度か優しく叩いた後、凪が先刻よりも落ち着いた声で静かに告げる。

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