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❁✿✾ 落 花 流 水 小 噺 ✾✿❁︎/イケメン戦国

第9章 龍は一寸にして昇天の気あり



正直、命を奪わずに相手を痛めつけて情報を得るなど、光秀にとっては造作もない事だ。しかし、光秀がそういった行為をしたと知れば、凪はますます自身を責める。元服前の光臣にとて、父である自身が拷問をした事を悟らせるにはまだ早過ぎるだろう。

(陽が暮れて山の天候が変わっても厄介だ。やはり見張りの交代を狙うか)

麓とはいえ、山の天候は変わりやすい。本来ならば夜の方が何かと身を潜めやすいが、賊の根城にどれだけ攫われた子供達がいるかも分からない以上、極力視界は明瞭な方がいい。効率的な面は勿論の事だが、何より小さな光鴇に一人、心細い思いをさせる事は光秀としても避けたかった。男が静かに思考を回すその傍らで、暫し口を噤んでいた光臣が真摯な面持ちのまま父を見上げる。

「父上、俺に考えがあります」
「駄目だ」
「ま、まだ何も言ってません……!!」

意を決した進言にも関わらず、にべも無くばっさりと言い切られた光臣が尚も食い下がった。涼やかな眼を我が子へ流し、光秀が普段よりも幾分厳しい眼差しを注ぐ。

「聞かずとも大方予想がつく」
「ですが……!!」
「臣くん、考えってもしかして……」

基本的に息子の意見には耳を傾ける光秀が、一刀両断した理由。それを凪も察したのか、さっと青褪めた顔で光臣を映した。母の様子を見て一瞬躊躇いを過ぎらせるも、少年は意を決して言い切る。

「連中の狙いは子供です。俺は鴇より歳も上で大きいですが……夫婦の言葉が真なら、俺も【童の岩戸隠し】の対象になりうるかと」
「駄目っ……────!!!」

光臣がすべてを言い切るより先に、凪が切羽詰まった声で制止した。その必死な剣幕に驚いた少年が息を呑み、光秀とよく似た金色の双眸を瞠る。

「臣くんまで危ない目に遭ったら、私……!」
「母上……どうか落ち着いてください。俺が敢えて連中に攫われた方が、確実に根城を探り当てる事が出来ます。父上は見張りの交代を狙うおつもりでしょうが……次の見張りの交代はいつ頃ですか?」

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