❁✿✾ 落 花 流 水 小 噺 ✾✿❁︎/イケメン戦国
第9章 龍は一寸にして昇天の気あり
不自然なタイミングを図ったように母親とおぼしき女が出て来て、意味深な一言を残していった事。そしてその間に、気付けば光鴇がいなくなっていた事。すべてを語り終えた後、話を聞いていた職人夫婦が沈痛な、あるいは罪悪感を抱いた顔を浮かべる。
「……奴らの常套手段さ。集落の連中に気を引かせて、その隙に子供を攫う。余所から攫って来る時も集落の人間が駆り出される事だってあるんだ。私らはあの賊どもにとって、体(てい)の良い風除けなんだよ」
「あの賊ども、俺達が何処かへ密告しに行かないよう集落に見張りを残してるんだ……!もしあんた達に秘密を喋った事が知れたら、俺達は……!!」
賊の割りには多少頭が回るという事か。夫婦が頻(しき)りに外や周囲を気にかけていた事実に納得した光秀が、二人を見据える。
「賊の手が集落の者達へ及ぶ前に片を付ける。奥方、賊の根城に心当たりはあるか」
「私らもこの辺りの山の麓って事しか……ただ、一日に二回見張りが入れ替わるから、そう遠い距離じゃあないと思うよ」
「闇雲に探しても、時間がかかるだけですよね……鴇くん……」
凪が光鴇の毛糸帽子をぎゅっと抱きしめた。さすがに根城までは分からないという女に対して不安をひとつ零し、未だ潤んでいる大きな眸へ涙を滲ませる。
「凪……賊が子らを売り物として見ている以上、下手に手出しはしない。鴇は必ず無事でいる」
「……はい、鴇くんの方がずっと怖い思いをしてる筈ですもんね……しっかりしないと」
光秀が指先で凪の涙を優しく拭ってやった。慰めるような言葉に彼女が何度も頷き、必死に自らを鼓舞しようとする。とはいえ、賊の根城が分からない以上はあてもなく探す他ない。そう短い期間で動きがあるとは考え難いが、子供達の場所を移されては大変だ。
(集落を見張っている者に吐かせるのがもっとも手っ取り早いが、凪や臣に惨いものを見せる訳にもいかない)