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❁✿✾ 落 花 流 水 小 噺 ✾✿❁︎/イケメン戦国

第9章 龍は一寸にして昇天の気あり



他の男へ促される形で偽行商人の男が渡り廊下を歩いて行った。出入り口がひとつしかなく、完全に一方通行であるそこの扉の鍵を開けると、麻袋を放る。丁度申し訳程度に敷かれている茣蓙(ござ)の上に落下した拍子、いたいいたい!と光鴇の怒ったような声が響いた。

「おら、お前等の新しいお仲間だ。仲良くしてな」

そう言って鼻先を鳴らしながら笑った男が、けたたましい音を立てて扉を閉ざした。がたん、と閂(かんぬき)を用いて施錠するような鈍い音が響いた後、ようやく光鴇は自ら閉じ込められていた麻袋から顔を出す。偽行商人に捕まる際、抵抗した折に髪を掴まれた為、結い上げられた黒髪はすっかり乱れていた。ようやく自らの目で置かれている状況を確認出来た光鴇が、倉庫内を見てぎょっと目を瞠る。

(こども、いっぱい……)

窓が限られた箇所しかない為、昼間でも十分な光が射し込んで来ない関係で薄暗い倉庫は、思った以上に広々としていた。中央には火鉢が置かれており、木炭の質があまり良くない所為か、頼りなく赤々として燃えている。その周囲へ暖を取るよう身を寄せ合っていた子供達は、ざっと数えて十人程度。誰もが薄汚れており、着ている着物もどちらかと言えば粗雑なものだ。彼らはおそらく農民の子供だろう、と光鴇が咄嗟にそう思ったのは、学問所で仲良くしている友人の中に、農家の子息がいたからである。

「お前も隠されたのか。これで十一人目だな」
「かくされた……?かくれおにのこと?」
「隠れ鬼は鬼が見つけてくれるだろ。これはそんな生易しいもんじゃない」

状況の把握が出来ず、呆然としている光鴇が座り込んでいるのを目にして、一人の少年が声をかけて来た。少年は倉庫内にいる子供達の中で一番年長のようで、兄の光臣より数歳年下といった印象だ。まるで理解していない風な光鴇を目にすると、少年は浅い吐息を漏らし、静かな声で告げた。

「ここは岩戸隠しされた子供達が集められた場所だ。隠された子供は────煎り豆に花が咲くまで、二度と家には帰れない」

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