❁✿✾ 落 花 流 水 小 噺 ✾✿❁︎/イケメン戦国
第9章 龍は一寸にして昇天の気あり
「さてお前達、ひとつ取り引きと行こうか」
怒号を浴びせられている訳でもないというのに、職人夫婦はまるで獣にでも出くわしたかの如く、びくりと身を震わせて竦み上がった。切れ長の鋭い金色に射抜かれた二人は、笑みのひとつも浮かべない光秀の有無を言わせぬその科白に、知らずと歯の根を震わせたのだった。
───凪が光秀達と合流した頃、とある山の麓にて。
「はなせー!とき、みんなのところ、かえる!!!」
「ったく、小煩い餓鬼だ。まあいい、こいつは餓鬼のくせに器量が良いからな。高く売れるぞ」
「とき、がきじゃない!ときはとき!!!」
小さな子供がすっぽり入る大きさの麻袋を抱え、先刻行商人に扮していた男が山の麓付近にある平屋へ足を向けた。平屋は母屋と倉庫らしき建物に分かれており、渡り廊下で繋がっている。母屋へ入ると、複数人の男達が囲炉裏の前で昼日中から酒を呷っていた。先刻から落ち着き無くもごもごと動く俵担ぎの麻袋を見て、偽行商人の仲間と思わしき男が下卑た笑いを浮かべる。
「なんだ、また隠したのか。あんまり増えると飯の世話が面倒だぞ」
「そう言うなよ。こいつ、中々に悪くねえ面してやがる。変態どもが高値で食いつきそうだ」
「とき、むむむ!みんなのところ、かえる!わるいやつ、めっ!!」
「……何かやたら活きがいい餓鬼だな」
「こいつ商家か何かの餓鬼だぞ。見ろよこれ、あんな薬草ぽっちでこんだけ金落としやがった」
「おお……!!」
偽行商人が光秀から受け取った金子を取り出し、仲間内に見せびらかした。煌々と輝く一枚のそれに男達の目の色が変わり、麻袋に詰め込まれた状態の光鴇を見て、あくどい笑いを零す。
「ならさっさと売るのは勿体ねえ!この餓鬼の親から金むしり取るだけむしり取って、最後に売りゃあいい。丁重に扱えよ?この餓鬼は特に大事な金づるだ。下手に傷なんかつけたら、勿体ねえからな」
「とき、かねづるじゃない!ときはとき!!!」
「取り敢えず倉庫ぶち込んどけよ。こいつの親からどうやって金引っ張るか考えるぞ」
「おお」