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❁✿✾ 落 花 流 水 小 噺 ✾✿❁︎/イケメン戦国

第9章 龍は一寸にして昇天の気あり



───一方その頃、木工細工職人の工房にて。

凪が光鴇を厠へ連れて行っている間、光秀と光臣は木工細工職人の工房へとやって来ていた。囲炉裏には煌々と燃える火が焚かれており、その上に湯の入った鍋がかけられている辺り、工房と言っても一般的な民家と変わらない印象だ。母屋と工房を兼ねているそこへ足を踏み入れると、中で作業をしていた夫婦が光秀らを見て驚いた表情を浮かべる。

「あ、あんたさん方……もしかして湯治に来た旅の御人かい?」
「ああ。今宵はこの集落へ滞在する事になっているが……」

職人の夫が手元の作業を止め、何処となく声を震わせながら問うて来た。自身らを目にした刹那、さっと顔色を一瞬にして青くした二人を、光秀が見逃す筈もない。ほんの僅かに鋭く双眸を眇めた後、いつも通り淡々とした調子で相槌を打った男が、光臣を己の背へ庇うようにして一歩前へ出た。三和土(たたき)の上を濡れた雪沓で軽く踏みしめ、白い羽織りを羽織っている事で見えていなかった刀の柄を、利き手でするりと意味深になぞる。

「俺達がいると何か不都合な事でもあるのか」

形の良い唇へ薄っすらと笑みを乗せた光秀が、常より低めた声色で圧を乗せるように告げる。職人の男は元々小心者な気性なのか、ひいっ!と言いながら身を飛び上がらせるようにして、手にしていた細工物や道具を畳の上へ取り落とした。その様を目にし、光臣が父の突然の行動へ驚きを露わにする。

「父上……!?一体何を……!!?」
「お、御武家様に逆らうなんて滅相もねえ……!そんな物騒なもん振り回すのだけは勘弁してくれ!!」
「煩いねえあんた!でかい声出すんじゃないよ……!奴らの見張りがいたらどうするんだい!」

条件反射とばかりに光秀へ向かって平伏した夫の、びくびくと震えた情けない姿を目にした職人の女房が、平手で男の尻をすぱん!と小気味良く叩いた。さすがにその展開は光秀自身も予想していなかったのか、光臣と親子揃って二人で似たような顔のまま眸を瞠る。

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