❁✿✾ 落 花 流 水 小 噺 ✾✿❁︎/イケメン戦国
第9章 龍は一寸にして昇天の気あり
「どうしよう……今はお薬持ってないから、簡単な処置しか出来ないけど……親御さんは近くにいるのかな?この集落の子だよね。お家まで案内出来る?」
完全に流血している訳ではないが、擦れた箇所から薄っすらと赤いものが滲んでいる様を見て、光鴇が心配そうに眉尻を下げた。日頃、母にくっついて調薬室や兵達の演習へも同行している為、怪我は見慣れていると言えばそうなのだが、やはり痛そうなものは痛そうだ。何とか子供の両親を見つけるか、もしくは家へ連れて帰ろうと試みるも、大きな目から大粒の涙をぽろぽろと零す幼い男子(おのこ)はただ泣きじゃくるだけである。
(どうしよう……というかこれだけ子供が泣いてれば、家の中から誰か出て来てもいいようなものだけど……戸を開けて覗く気配もない。もしかして捨て子……とかそんな事はないよね?)
近くに両親らしき姿はなく、子供は自分の家が何処であるのかを示そうとしない。集落の人間は誰もが無関心を貫いており、様子を窺う事もなく屋内で息を潜めているかのようだ。乱世で十年以上生きていれば、凪とてこの時代に口減らしなどの目的で子供を捨てたり、良くて寺へ預けるといった行為が、貧しい集落になればなる程出て来るという事は理解していた。よもやこの泣いている子供もそうなのだろうか、と可能性を脳裏で過ぎらせつつ、手拭いを取り出して傷ついた小さな膝へ巻いてやる。
「ひざ、いたい……」
「ちゃんとした処置が出来なくてごめんね……お話を聞きたいから、泣きやめるかな?」
(おひざ、いたいいたい、かわいそう……)
母が子供の処置をしながら穏やかに話し掛けている間も、光鴇は凪のやや後ろでその様子を眺めていた。膝の傷は実際大した事のない怪我だが、その痛みは当人にしか分からない。光秀との稽古で何度も転ばされ、膝や尻を痛めた記憶が脳裏に過ぎると、光鴇は何事か思いついた様子で目を瞠る。
(おくすりやさん、おくすり、もってる……!)