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❁✿✾ 落 花 流 水 小 噺 ✾✿❁︎/イケメン戦国

第1章 武将と五百年後ノープランツアー 前



視線を流すだけで艶やかさを感じてしまう程の恋仲を前に、凪の耳朶がじわりと染まる。いつまでも変わらず初心(本人はそう言われると怒るが)な様は男心をくすぐった。鏡に映った光秀の、金色を宿した眸が眇められ、そっと唇が音を零す。

「あまり無防備にしていると、またその紅が乱される事になるが」
「え!?だ、駄目です…!」

悪戯に、しかし奥底には本音を潜ませて告げた男の言葉へ咄嗟に凪が背後を振り返った。両手で軽く自らの唇を覆うようにすると、むっと眉根を寄せる。

「光秀さんがせっかく塗ってくれたのに、駄目」

文句のつもりで紡がれたのだろうそれは、男の心をくすぐるものでしかない。相変わらず学ばない娘だ、などと心の中で吐息を漏らした光秀は、仕方なさそうに肩を竦めて、唇を覆う彼女の片手をそっと取った。いざなわれるようにして片手が導かれ、光秀が軽く身を屈める。そのまま、自然と反対の手を下ろした凪が、目の前で伏せられた長い睫毛を前にして鼓動を跳ねさせた。形の良い薄い唇が掌へ触れる。ちゅ、と小さな音を立ててすぐに離れていった、愛らしい口付けをした後、顔を上げた光秀が甘く微笑した。

「では、ひとまずこれで我慢するとしよう」
「……っ、そ、そうして下さい」
「さて、そろそろ行くか。あまり遅いと、彼方殿辺りに小言を言われてしまいそうだからな」
「はい…!」

グロスと口紅を巾着の中にしまい、手首に引っ掛ける形でそれを持つ。当たり前のように絡んだ指先はしっかりと繋がれ、男が冗談めかして告げた。何となく想像出来る図に、凪もつい小さく笑いを零し、返事をする。メイクルームを出てカードキーを手に取り、扉を開けようとする寸前、光秀がああ、と不意に声を上げた。何事かと隣に居る相手を振り仰いだ凪の耳朶へ、身を屈めた光秀の唇が近付く。

「やはりその柄は、お前によく似合う」
「……!」

秘め事の如く囁かれた音へ、もう何度目かも分からない鼓動がとくんと一際大きく跳ねた。そうして、さっと頬が鮮やかに染まる。

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