❁✿✾ 落 花 流 水 小 噺 ✾✿❁︎/イケメン戦国
第9章 龍は一寸にして昇天の気あり
弟切草は別に珍しくもなく、時期になれば何処にでも割りと自生している為、稀少性は圧倒的に低い。行商人が提示した三百文という金額は、ほとんどが風藤葛分の価格という事だろう。ちなみに乱世でいう一文は現代の貨幣価値で言うと百円程度であり、行商人が薬草代として売り込んで来たのは三万円という事になる。
そう考えると中々の金額だ。何故か一人しょんぼりとする光鴇はともかく、光秀と光臣が行商人を見定めるように、二人揃って良く似た金色の眸を眇めた。その底知れぬ圧からぞくりとしたものを男が感じ取ると共に、凪がふと声を発する。
「うーん、でもその分の価値はあるかも。風藤葛って日ノ本だと本当に厳選された地域でしか採れないから、入手自体も結構難しいんです。何より毒の傷口に効くから、万が一の時にも使えるかもしれないですし」
「そう!そうなんですよ奥方様……!御覧ください、この程よい熟し具合。きっと何かのお役に立つと思いますよ」
「それだけ稀少だというのなら、あるだけ貰うとしよう」
「えっ!!?そんなにですか……!!?」
凪が真剣に悩んでいる様を見て、行商人があとひと押しとばかりに畳み掛けた。しかし、凪が決断を下すよりも早くに光秀がさらりとにべも無く言い切ると、彼女が驚きで目を丸くしながら隣を振り仰ぐ。
「人も物も一期一会と言うだろう?滅多に出くわす機会がないというのなら、その価値もある」
「あ、ありがとうございます。でもせめて半分は出させてくださいね」
「店主、勘定を頼む」
「光秀さん聞いてます……!!?」
基本的に光秀は妻子に甘い。自身のものには然程金などかけないというのに、自らの家族には惜しみなく使うという事は凪もよく知っていた。自分が欲しいと思ったのだから、勘定をすべて任せる訳にはいかないと言い募るも、光秀は吐息を漏らすようにして短く笑った後、さっさと行商人に代金の計算を求める。