❁✿✾ 落 花 流 水 小 噺 ✾✿❁︎/イケメン戦国
第9章 龍は一寸にして昇天の気あり
「!!!!」
「おや、母の御目当てが先に見つかったか」
「母上の目が輝いておられるという事は、つまりあれですね」
「そういう事だな」
「ははうえ、うれしそう!ときもうれしい!」
凪の視線が向けられている先に気付き、光秀が吐息を零すように笑った。父の口振りに、光臣も何事かを察した様子で母を見る。父と手を繋いでいた幼子が無邪気に喜び、笑顔を浮かべた。凪が関心を示すものと言えば大方決まっている。
「臣、鴇、先に母の用事を済ませても良いか?」
「えっ、でも……」
「いいよ!」
「俺も気になるので構いません。別に工房は逃げませんしね」
光秀が二人の息子達へ確認すれば、両者から色好い返事が紡がれた。光鴇はともかく、光臣は薬学にも非常に興味を持っており、凪や時折駿府からやって来る家康へ師事している程だ。自分の興味を優先する事に申し訳なさを覚えつつも、せっかくの気遣いを無碍にするのも悪いと考え、凪が眉尻を下げながら笑う。
「臣くん、鴇くん、ありがとう。光秀さんも、ありがとうございます」
「任務で留守にしていた間、子らの面倒を見ていたのはお前だ。このくらいの事は当然だろう」
乳母(めのと)を雇わず、自らの手で二人を育てると凪が決めた事もあり、御殿には年を召した女中が増えはしたものの、子供達は光秀がいない間、母である凪が面倒を見ている。五百年後では当然とされる事も、この乱世にしてみれば実に異様な事だ。子を二人育てるのは決して楽ではないと分かっているからこそ、光秀はいつも惜しみない労(ねぎら)いを凪にかけてくれる。
(やっぱり光秀さん、優しいな。臣くんや鴇くんも、そういう光秀さんを見て優しく育ってくれてるんだって思うと、凄く幸せ)
当たり前だと見逃してしまいがちな、小さな幸せに胸をほんのりと暖かくして凪は光秀らと共に視線の先────薬草の行商人の元へと足を向ける。集落は元々家々が城下町のように密集している訳ではなく、家屋同士の間隔が割りと広い。