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❁✿✾ 落 花 流 水 小 噺 ✾✿❁︎/イケメン戦国

第9章 龍は一寸にして昇天の気あり



ぱっと幼子の表情が輝き、嬉しそうに光秀の足元へきゅっと抱きついた。素直な感情表現を見せる幼子の頭をぽん、と撫でてやる光秀を目にし、凪も笑顔を浮かべる。うっかりとばっちりが兄にまで及べば、光臣が目を丸くして勢いよく母へ振り返った。その何処となく思春期を思わせるような反応を目にして、光秀が可笑しそうに涼やかな双眸を眇める。

「ほう?それは楽しみだ。文ならば気になる娘のひとりふたり、名を挙げられるだろう」
「やっぱり臣くん、好きな子いるの……!?」
「前にも言いましたけどいません……!!父上も誤解を受けるような事は言わないでください!」
「そう素気ない事を言うな。父なりの息子へ向けた戯れだ」
「もっと別の形にしてもらえると助かります……!!」

光鴇だけが光秀にからかわれて遊ばれているかと言えば、存外そうでもない。むしろからかいの度合いは、幼子よりも光臣の方が高いのだ。それはおそらく、母に似たそのムキになる反論の仕方によるものなのだろうが、生憎と当人達が男の意図に気付く様子はない。

「ときもみんなとたわむれたい!」

小さな弟が話の意図をまったく理解していないにも関わらず、便乗して来る。光鴇が跳ねる度、足元の雪がぎゅ、ぎゅと微かな音を立てて踏み固められた。からかわれていた光臣が、弟のお陰で話が逸れた事にそっと安堵するのを見て、光秀が可笑しそうにくつくつと笑う。

「ふふ、じゃあ早速行きましょう」

いつもと変わらぬ和やかな家族のやり取りを目にし、凪が微笑ましそうにしながら促した。そうしてまず最初は、秀吉への土産と光鴇の硯箱を買う為に木工細工屋へ行く事に決まり、一家は閑散とした雰囲気の漂う集落で細工職人の工房を探すべく、歩き出したのだった。



集落の中はとても静かで、宿から出て工房探しに至る過程までで誰ともすれ違う事はなかった。粉雪がちらつく事もなく、日差しの強い太陽が真っ白な大地をきらきらと輝かせる様を家族で楽しみながら歩いていると、凪がふと大きな黒々した猫目を輝かせる。

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