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❁✿✾ 落 花 流 水 小 噺 ✾✿❁︎/イケメン戦国

第9章 龍は一寸にして昇天の気あり



足首が軽く埋まる程度の積雪を前に、光鴇は興奮した声を上げた。凍えてしまわぬよう、兄と揃いである厚めの丹前を羽織り、以前五百年後へ家族で旅行に出掛けた際に購入した、丸い白のポンポンつきの毛糸帽子をすっぽりと被った光鴇が小さな雪沓(ゆきぐつ)で足跡をつけ、遊んでいる。安土でも時折雪は降るものの、積もるまでもなく翌朝には溶けてしまう事がほとんどである為、辺りが白く染まっている様は子供心に新鮮なのだろう。

「転ぶ事は前提なのか」
「なに、仔栗鼠が転んだ時はそのまま転がして雪の団子にでもしてやるとしよう」
「!!?」

光鴇とは色違いだが、ポンポンのついていない灰色の毛糸帽子を被っている光臣が弟へ思わず突っ込んだ。その隣で光秀もまた可笑しそうに喉奥を鳴らしつつ意地悪を言えば、幼子がぎょっとしながら父を見上げる。

「とき、おだんごちがう」
「食ってみなければ分からないだろう?どれ、試しにこの丸い頬を摘んでみるか」

赤く染まったふくふくとしている光鴇の頬へ向けて、光秀が冗談めかした調子で指先を伸ばした。ますます金色の猫目をまんまるにした幼子が両手でふにっとした頬を押さえ、慌てて母の後ろへ隠れる。

「と、ときのほっぺ、おいしくない!」
「もう、また可愛いからって鴇くんの事いじめて」
「別に鴇に限った話ではないが……お前も意地悪を御所望ならば、素直にそう言うといい」
「絶対に違いますからね……!?」

ぽん、と光秀が凪の頭を優しく撫でた。まるで光鴇ばかりを構う事に不服を述べているかのような構図に受け取られ、凪の頬がじわ、と寒さではない理由で赤く染まった。相変わらずな家族の様子を目にして光臣が頬を緩めると、村の様子をぐるりと見回す。

「それにしても……さすがに天候の所為か、あまりひと気はありませんね」
「安土城下だと常に人が沢山いるような印象だけど、普通冬は何処もこんな感じなのかも。雪が降ったら畑仕事も出来ないし」
「おそと、ぜんぶまっしろ!」

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