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❁✿✾ 落 花 流 水 小 噺 ✾✿❁︎/イケメン戦国

第9章 龍は一寸にして昇天の気あり



男は顔を真っ赤にし、地団駄を踏むようにして勢い良く立ち上がった。そうして自らの子息と家族を引き連れ、荒々しい足取りでその場を立ち去って行く。

「……さて、話は以上だ。人は生きている限り、必ず自ら何かを選択している。そして選択する為の正しい目を養うには多くの知識が必要となる。蓄えた知識はお前達がこれから先、生きていく上で必ず役に立つだろう。学べる時に学び、己の感性を鋭く磨きなさい」

顕如の言葉を耳にし、子供達が元気よく返事をした。これからの日ノ本を担って行くのは間違いなく、ここにいる子供達だ。現世(うつしよ)は極楽浄土とは程遠く、数多の苦難に満ちている。しかし、だからこそ一歩ずつ着実に成長し、次の時代へと繋げて行く事が出来るのだろう。

説法を終えた顕如が、次いで子供達に手習いへ取り掛からせた。自らの筆を懸命に動かす光鴇の真剣な後ろ姿を目にして、凪は光秀や光臣と視線を交わすと、穏やかに微笑んだのだった。


─────────────…


公開手習いを終えてから更に数日後────明智家は安土を出て、とある遠方の村まで足を向けていた。所謂、ちょっとした家族旅行である。

何故そのような事態になったのかと言えば、正月を明けて以降、普段に増して何かと忙しくしていた光秀に対し、秀吉が痺れを切らす形で強制的に数日間の非番を与えたのだ。多忙であったのは光鴇の公開手習いへ行く予定をあける為だった訳だが、それすらも何故最初から言わなかった、と眦(まなじり)を吊り上げた秀吉に、こんこんと小言を貰ったのは未だ記憶に新しい。

秀吉に言わせれば、家族に関わる事なら、幾らでもこっちで折り合いをつけられた、という事であったようだ。そういった相談をせず、自身で仕事を詰めて身体をあけようとした光秀に対する文句ならば、ひとつふたつ出ても仕方がない。

「ゆき!すごい!!」
「鴇くん、はしゃいで転ばないように気をつけてね」
「うん!とき、ころんてしてもなかない!」

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