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❁✿✾ 落 花 流 水 小 噺 ✾✿❁︎/イケメン戦国

第9章 龍は一寸にして昇天の気あり



与えられたものをただ鵜呑みにするのではなく、常にそれが正しいか否かを見極めて生きるべきだという顕如の言葉には、この場では凪や光秀、そして蘭丸しか感じ取る事の出来ない、彼の後悔が滲んでいるように思えた。何を信じるか、信じないかはそれぞれの自由だが、何も知らずに決断を下す事の愚かさを、豆まきの伝承を通して子供達へ、そしてこの場にいる大人達へ伝えようとしていたのかもしれない。

「顕如様の御高説は大変我が息子の身になりました。……しかし、かつて日ノ本が倭と呼ばれていた時代を治めておられた偉大な方々が、真にそのような無体を神になさるでしょうか?御仏にお仕えする顕如様が妄語を子らへ広めたとなれば、それこそ御仏の御意志に反する事になるのでは……?」

熱心に顕如の話へ耳を傾けていた者達の中で、不意に一人の男が口を挟んだ。男は先刻、皆の前で辱められた武家の子供の親であり、己や家の体裁を保つ為に噛み付いて来たらしい。物腰は実に丁寧だが、豆まきの起源となる伝承を他の誰も知らなかったというところを突き、嘘を並べているのでは、と言って来たのである。

「顕如様のお話を聞いて、まだ反論できる人がいるんだ」
「この世の中、話の根幹を理解出来る者ばかりではないからな」
「ふ、二人共!しーっ!!!」

蘭丸と光秀がいっそ感心した風に言えば、凪が慌てて二人を窘(たしな)めた。発言した男とその家族が明智家と蘭丸の方へ険のある眼差しを向けて来たのを見て、光秀がやれやれと肩を竦める。

「いつの世も、都合の悪い事を隠したがるのは中央───権力を持つ者だろう?」

例えば今まさに、貴殿が家名の恥を払拭しようとしたように。光秀がそう付け加えた瞬間、周囲がさざなみを立てたようにくすくすと密やかな笑いを零し始めた。

都合の悪い事を隠すには、別の何かを悪に仕立て上げるのがもっとも手っ取り早い。周りにいる大人達は、光秀が言わんとしている事を理解した上で控えめにだが笑ったのだ。

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