❁✿✾ 落 花 流 水 小 噺 ✾✿❁︎/イケメン戦国
第9章 龍は一寸にして昇天の気あり
半数あまりの者達は心を揺り動かされたような様子であったが、すべての人間が素直に耳を傾けられる訳ではない。何処となくしんみりしてしまった子供達の中で、武家の子息であろう子供が声を上げる。
「顕如様……!御言葉ですが、天岩戸に隠れたのは天照大神(あまてらすおおみかみ)です!国常立尊(くにとこたちのみこと)なんて神、岩戸隠れの神話には出て来ません」
何処となくつん、としたような声を出した子供は、顕如の話を然程真面目に受け止めていないようだ。確かに凪自身も、有名な天岩戸隠れの神話くらいは大筋程度ならば知っている。他にも同様の事を思った者達がいたらしく、疑念を抱く声は子供達だけでなく、大人達にも広がっていった。しかし、それを受けても尚、顕如は落ち着いた素振りを崩さない。
「当然だ。天照大神は一柱の神を指す言葉ではなく、謂わば肩書きのようなもの。神話を読み解けば、天照大神は何代にも渡って存在している事が分かる」
「か、肩書き……!!!?」
(てっきりアマテラスって名前の神様だと思ってたけど、肩書き……役職だったの!!!?)
社長や会長、みたいなものだという衝撃の事実を聞かされ、凪だけでなく、光臣や他の者達も驚愕を露わにしていた。隣に座る蘭丸だけは顕如の切り返しへ誇らしげな表情を浮かべており、きらきらと輝く尊敬の眼差しを注いでいる。
「そ、そんな事聞いた事もないし、書物にだって載ってないぞ……!!」
「この世におけるすべての常識が、須(すべから)く正しいとは限らん」
異を唱えた武家の子息が、自らの面子を潰されたと顔を赤らめながら反論した。その子供はどうやらそこそこ力のある武家の嫡男であったらしく、腰巾着のような者達も便乗して不穏な気配を漂わせる。教室内が何処となく物々しい雰囲気に包まれる中、顕如は静かに双眸を一度閉ざし、再びその子供達を映した。
「物事には必ず起源があり、それを行う理由がある。お前は、何故文字というものが存在するか考えた事はあるか?」
「な、何故って……それは……」
「とき、ふみ、かくためだとおもう!」