❁✿✾ 落 花 流 水 小 噺 ✾✿❁︎/イケメン戦国
第9章 龍は一寸にして昇天の気あり
遥か昔、高天原(たかまがはら)で日ノ本の国神である龍神が外来の神と争い、その首が落とされた。首が流れたのが神の流れる川────神流川(かんながわ)、あらと呼ばれる胴体が流れたのが荒川、神の血でくまなく染まった事から千曲川になったと言われている。そしてその三つの川の源流にあたる場所こそが高天原と呼ばれており、豆まきの元となる伝承はその高天原が舞台になっているという。
高天原に住まう神世七代始まりの神、国常立尊(くにとこたちのみこと)は仁智勇を兼ね備えた厳格な神であった。しかし、その神へ反逆を企てた別の神が国常立尊(くにとこたちのみこと)を天岩戸(あまのいわど)へ閉じ込め、その入口をしめ縄で塞いだ。
争いを好まなかった神は自身が退き、その地位を譲る事に決めたが、反逆の神々は立ち去る国常立尊(くにとこたちのみこと)の背に向け、煎り豆に花が咲くまで天岩戸(あまのいわど)から出て来る事を禁ずるよう、呪詛をかけた。煎り豆からは芽が出る事も、花が咲く事もない。即ち、二度とその岩戸から出て来るなという事を、豆を投げつける事で伝えたという。
「岩戸へ追いやられた国常立尊(くにとこたちのみこと)の一族達は不可思議な力と争いを好まぬ穏やかな心を持っていた。倭>(やまと)の者達はその力を恐れて鬼と呼び、彼らを山奥へ追いやったとされている。……豆まきとは、再び岩戸から厳格な神とその一族が現れて力を取り戻す事を恐れた者達がかけた、呪(しゅ)だったという話だ」
「かみさま、かわいそう……」
顕如が話を終えると、光鴇や主に農家の子息達が口々に閉じ込められた神を思う言葉を零した。邪気を払うとされている豆まきに、よもやそんな伝承が隠されていたとは驚きである。
(現代でも何気なく季節ごとの行事だからってやってた事だけど……そういう些細な風習ひとつでも、色んな理由が隠されてるんだ……私、日本人なのに全然知らなかった)
その話を、顕如の口から聞けたという事実も、とても貴重な事のように思えた。