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❁✿✾ 落 花 流 水 小 噺 ✾✿❁︎/イケメン戦国

第9章 龍は一寸にして昇天の気あり



光秀にそれを言えば、使えそうな駒だったので好きに泳がせておいただけだ、などと言われそうだが。それでも、光秀が口を閉ざしてくれていたからこそ、今の蘭丸がある。

「蘭丸、どうした」

歩みを止めている事を怪訝に思った顕如が声をかけて来た。少しずつ小さくなっていく親子の背から視線を逸らして顕如へ向き直り、蘭丸が笑顔を浮かべる。

「いいえ。……光秀様、ちゃんと光臣くんと光鴇くんの父上やってるんだなと思っただけです」
「人は他者との関わり合いの中で変わって行くものだ。人の親になるというのは、その最たる例だろう」

光秀達の方へ振り返らぬまま、顕如が静かな声で告げた。他の者には素気なく聞こえてしまうかもしれない言葉はしかし、何処か穏やかで暖かい。わざわざ表情を見ずとも、蘭丸には顕如がほんのりと小さな笑みを浮かべているのだと分かった。

少し歩みを速めた蘭丸に合わせ、顕如が歩調を緩めてくれる。随分前は一人遠ざかって行くその背を足早に追うばかりであった自分が、こうして傍で大切な人と共に在れるのは、多くの人々との縁があったからこそだ。

(光秀様が光臣くんの頭を撫でてる時の顔……まだ小さかった俺の頭を撫でてくれた顕如様の顔と同じような感じだったって言ったら、どう思うかな)

光秀は真意の読めない顔で笑うだけかもしれないけれど、顕如は少し複雑な表情をするかもしれない。そんな事を考えながら蘭丸が口元をそっと綻ばせ、顕如の隣へ並んだのだった。



学問所には現代で言うところの教室が二部屋しかない。教える相手が多いと、指南役である住職の手が間に合わないという訴えがあり、大まかに人数を二分割した結果がそれだ。ちなみに今日は光鴇が所属する組の公開手習いとなっており、明日はもうひとつの組が予定されている。

まだ戦国時代の学舎には、同年齢別に分けて段階を踏んだ教育をする、という事が浸透していない。現代のように複数の教科を満遍なく勉強するという訳でもない為、子供達は年齢も身分も何もかもを関係なく学舎に詰め込まれるのだ。

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