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❁✿✾ 落 花 流 水 小 噺 ✾✿❁︎/イケメン戦国

第9章 龍は一寸にして昇天の気あり



「凪様に光臣くん、それから光秀様も久しぶり!わあ~光臣くん、何だかどんどん光秀様に似て来てるねっ」
「恐れ入ります、蘭丸さん」

蘭丸が持つ生来の人懐こさとアイドル顔負けの容姿は健在で、大阪城の女中達や城下の町娘達、そして天満村の人々には相変わらずの人気者らしい。以前顔を合わせたのはかれこれ一年程前で、成長著しい光臣の頭を撫でながら屈託ない笑顔を浮かべた。そうして、いつもちょこまかとしている光鴇の姿がない事に気付くと、何かを勘付いた様子で首を傾げる。

「光鴇くんの姿がないって事は、もしかして今手習い中?」
「うん、今頃はきっと教室でそわそわしてるかな」
「そうだったんだ……!じゃあきっとこれも何かの縁ですね、顕如様!」

人見知りという言葉をまるで知らない光鴇は、蘭丸や顕如を見かけるといつも一直線で突っ込んで行く。家族が学問所にいて、幼子の姿がないとなれば理由は大方絞られたようなものだ。凪が笑顔で肯定すれば、納得した蘭丸が顕如を振り返って明るい声を響かせる。

「よもや貴殿とこのような場所で顔を合わせるとはな、顕如殿」
「まったくだ。頼まれ事は見定めて受けるべきという御仏の教えだろう」
「なに、せっかく安土へ足を向けた事だ。勤めを終えたらゆるりと寛いで行くといい」
「戯言を。用が済んだら早々に戻る」

かつて敵対関係であった頃は顕如、と呼び捨てで呼んでいた光秀も、信長と顕如の間で不戦講和が取り決められてからは、法主たる立場の相手へ礼を尽くす形となった。とは言っても、長年続いていた織田軍との不和の名残はそう容易に払拭出来るものではない。光秀側はともかく、顕如の態度に何処となく物々しさが残っているのは仕方のない事である。

「もしかして、今日の指南役は顕如さんなんですか?いつもの住職さん、調子が思わしくないとか?」

せっかく久々に会えたという事で、雰囲気を悪化させるのも勿体ない。そう考えた凪が話を切り替えると、意識を彼女へ向けた顕如の目元がほんの僅かに和らいだ。

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