• テキストサイズ

❁✿✾ 落 花 流 水 小 噺 ✾✿❁︎/イケメン戦国

第9章 龍は一寸にして昇天の気あり



指南役を務める住職らからは、様々な武家の子息が一堂に会するなど生きた心地がまるでしない、と拒否の姿勢を取っていたが、武家からの圧力────否、熱い要望により、取り入れられる事となったのだった。

「臣くんの公開手習いは何度か行った事があったけど、鴇くんは今回が初めてだもんね。楽しみだなあ」
「確か前回は、鴇が当日に知恵熱を出したのでしたね」

光鴇と近い年頃の子供達が集まる部屋へ足を向けながら、凪がそっと安堵の息を零す。実は以前にも公開手習いへ参加出来る機会はあったのだが、当時は事前に光鴇へその旨を伝えていた為、本人があまりの嬉しさに興奮してしまい、当日の朝になって高熱を出してしまったのだ。

風邪の症状がひとつも見られなかった事と、半日程大人しくしていたら熱がすぐに下がったのを見て知恵熱だと判明したのだが、あの時の幼子の落ち込みようといったら目も当てられない程であった。

「仔栗鼠へ秘匿していた甲斐があったな」
「朝、皆で学問所に行けるって聞いた時、ちょっと危なかったですけどね……」

軽く肩を竦めてくすりと笑った光秀が口元を綻ばせる。本当は光秀自身、仕事を詰めている過程で今日という日にあきを作れるだろうという事は、ある程度予想がついていたのだ。しかしそれを敢えて凪にも直前まで伝えなかったのには、そういった理由があった。皆が非番だという事を朝餉の際に告げられた時の光鴇の喜びようは凄まじく、それだけ今日という日に向けてそわそわと気を揉んでいた事が分かる。

「あ!顕如さんに蘭丸くん……!?」

子供達が集まる部屋へ繋がる渡り廊下を進んでいた途中、前方から見知った二人の姿を目にして凪が思わず驚嘆と共に声を上げた。やって来たのは、大阪の天満(てんま)へと新たに天満本願寺を建築し、そこの法主となった顕如と、信長の小姓を続けながら顕如の元へも度々使いとして出掛けている蘭丸だ。蘭丸は光秀らの姿を認めると嬉しそうに笑顔を浮かべ、三人の元へやって来る。

/ 800ページ  
スマホ、携帯も対応しています
当サイトの夢小説は、お手元のスマートフォンや携帯電話でも読むことが可能です。
アドレスはそのまま

http://dream-novel.jp

スマホ、携帯も対応しています!QRコード

©dream-novel.jp