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❁✿✾ 落 花 流 水 小 噺 ✾✿❁︎/イケメン戦国

第9章 龍は一寸にして昇天の気あり



光臣がまだ光鴇くらいの歳であった頃は、むしろ戦う父や武将達の姿を頻繁に見ていた事もあってか、随分早くから剣術に興味を示していた。稽古で相手を打つ事や打たれる事は自らが強く鍛えられているという事、父へ着実に一歩ずつ近づいている事なのだと意気込み、今光鴇が持っている躊躇いはなかったのだ。

十人十色とはよく言ったもので、一人一人が違う性格、違う個性を持っている。一概にひとつの枠へ無理に当て嵌めるのは、光鴇本人の個性を損ねてしまう事になるのではないかと凪は悩んでいた。例えばこれが彼女の生まれ育った五百後の世だったならば、まかり通る事だったのかもしれない。

(ここは乱世だから、いざって時の為に自分を守る手段を持っておいた方がいいって気持ちも、凄く良く分かる)

剣の稽古が嫌なら、やめてもいいんだよと凪が伝える事は簡単だ。しかし光秀が何故子供達に戦う術を教えているかを分かっている以上、その言葉を発する事も憚られてしまう。親となり、子を育てるのは難しい事ばかりだと心が静かにせめぎ合う中、凪がそっと溜息を漏らした。中途半端で止まっていた縫い物の手を再開して繕いを終わらせると、凪が以前光秀から贈られた裁縫道具を片付ける。

「何やら浮かない顔だな、凪」
「わっ!!?」

ちょうど裁縫箱の蓋を閉めたところで背後から声が投げかけられ、凪が驚いた様子でびくりと短い声を上げた。反射的に振り返ると、近隣の視察任務を終えて帰って来た光秀が襖の傍へ立っており、妻の驚きようを見て頬を緩ませる。

「もう、また足音立てないで帰って来て……最近、鴇くんがそれ真似するんですからね?」

燭台の明かりに照らされた男の姿を見て、まず第一に安堵が凪の胸へ去来した。決して危険な任務ではなく、単に織田家の領地内を視察するだけのものだと分かってはいたが、無事光秀が帰って来てくれた事実は何度経験しても嬉しく、肩の力が抜ける想いだ。

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