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❁✿✾ 落 花 流 水 小 噺 ✾✿❁︎/イケメン戦国

第9章 龍は一寸にして昇天の気あり



その時、躊躇いを捨てて前へ進む力を、今の内から身につけて欲しいという光秀の心が、凪にも痛い程に伝わって来た。大切な命はひとつきり、唯一無二たるそれを光鴇自身で守れるようにする為に。

「………うん。とき、がんばる」

いつもならば快活な明るい返事を紡ぐ光鴇が、しょんぼりと肩を落とした。人を傷つける事は、悪い事。そう教えられて来た幼子にとって、実際に木刀で人を打つという事は衝撃的であり、幼いながらに持つ光鴇なりの良心がそれを咎めたのだ。

最初こそ気合い十分といった様で嬉々としていた光鴇の消沈した姿を前に、凪や光臣は心配そうに眉尻を下げたのだった。


─────────────…


安土城の道場で光臣と光鴇が光秀から稽古を受けて数日後。煌々と赤く燃える火鉢の傍で燭台の明かりを頼りに、幼子がほつれさせた羽織を繕っていた凪が、ふと縫い針を動かす手を止めた。

子供達を産むまではまったく針子仕事に無縁であった彼女だが、着物類などを仕立てるならばいざ知らず、細やかなほつれまで一々針子へ頼んでいては申し訳ないと考え、自然と自らやるようになったのだ。

城に勤める針子達とは実力など比べるべくもないものの、最低限の事は出来る。ただでさえやんちゃ盛り、そして日々稽古で着物を何処かしらほつれさせて帰って来る息子達の為の縫い物を前に、凪が表情を曇らせた。

(鴇くん、あれから毎日構えと素振りの稽古はしてるけど……)

道場から戻った後、光鴇は光秀から子供用の小さな木刀を土産としてもらった。父からもらったそれを嬉しそうに受け取り、毎日稽古をすると息巻いていたものの、いざ稽古が終盤、打ち合いになると瞬く間にそれまでの元気を失くしてしまうという事が続いている。

(戦国時代で暮らしてもう十年以上経つけど、私自身もやっぱり割り切れてないところは沢山あるし、小さな鴇くんが躊躇う気持ちも分かるな。臣くんの時は、速く父上に追いつくんだって言ってむしろ心配になるくらい小さい頃から稽古ばっかりしてたけど……同じ兄弟でも性格が違うのは当たり前だしね)

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