❁✿✾ 落 花 流 水 小 噺 ✾✿❁︎/イケメン戦国
第9章 龍は一寸にして昇天の気あり
大人と子供程の体格差ともなれば、そうそう戦う術などありはしない。それは光鴇自身も本能的に悟っているのか、困り眉で父を見上げた。幼子の構えを軽く直してやりつつ、光秀がある程度の距離をあけ、ちんまりした子供を改めて静かに見据える。
「端的に言えば、お前と同じ童(わっぱ)ならばまだしも、それ以上に大きな敵と戦ったところで勝機はない」
「とき、まけちゃう?」
「仔栗鼠は熊に勝てないだろう?」
「……うん」
「だが、時にはそういった局面に行き当たる事もある。その時はまずここを使う事だ」
心なしかしょんぼりと小さな肩を落とした光鴇に向かい、光秀がここ、と言いながら人差し指で自らの頭をとんとん、と指す。
「おつむ?」
「ああ、仔栗鼠の小さなおつむでも考えられる事で構わない。敵の隙を作る事が、勝機を掴む一助となる。佐助殿の煙幕を見た事があるだろう」
「ある!けむり、もくもくってなってた!」
「人が五感でもっとも重要視しているのは視覚だ。ならば、それを奪えばいい」
「しかく、うばう!」
視覚を奪うと言っても決して簡単な事ではないが、光鴇は何やら勝機を見い出したとばかりに表情が明るくなった。初めて木刀を握り、構えと体幹を鍛えた後、突然実践向けな稽古になった事実へ凪が驚き、目を丸くする。
「何か稽古内容がめちゃくちゃ具体的なんだけど……!!?」
「当然だ。実践を意識した形である程度身体を慣らしとかないと、咄嗟の判断が出来ない兵が育っちまうだろ?」
「俺も昔、父上からよく言い聞かされました。自分より力の差がある敵と戦う時は、まずは目を潰せと」
(そんな事、子供に教えてたの光秀さん……!!!?)
驚く凪を余所に、政宗と光臣は当然といった雰囲気であった。自分の知らぬ間に目潰しを教えていたとは。光臣がまだ幼かった頃、「おめめ、とります!」と笑顔で頻りに光忠へ言っていたのはその所為だったという事か。