❁✿✾ 落 花 流 水 小 噺 ✾✿❁︎/イケメン戦国
第9章 龍は一寸にして昇天の気あり
二人の言う通り、少し前までは散々床へ転がされていた光鴇が、今では大人の攻撃を何とか防ぎ、振り回される事なくその場に立ち続けている。
「重心の動かし方を身体で覚えたんだろ。まだ餓鬼の頃から身をもって基礎を覚えさせるのは悪くない。転べば痛いと分かってる以上、光秀に加えられる力を受け流して自然と体勢を保つ術を見つけたって事だ」
「木刀の構え方もかなり様になったように思います。体幹を試される構えは、剣術の基礎中の基礎ですから」
「そうなんだね……!鴇くん凄い!!」
数度鞘を左右へ振り薙ぎ、光鴇がそれを何とか堪えられるようになったのを目にして、光秀が手を止めた。その瞬間、ほっと安堵の息を漏らして見るからに力を抜いた幼子へ男が足を踏み出し、ぽん、と大きな掌を光鴇の頭へ乗せる。
「構えは覚えたようだな」
「!もうとき、ころんってしないっ」
「それは結構。とはいえ、辛うじて及第点といったところだ。俺がいない時は兄にでも付き合ってもらうといい」
「あにうえがいないときは?ははうえ?」
「母はお前を転がす事に胸を痛めるだろう?光忠辺りが適役だ」
「わかった!とき、みっただのかたな、えいってやるね」
「お前がやられる方だが」
「ん?」
父に褒められた事を純粋に喜んでいる幼子の表情へ笑顔が戻った。着物から覗く肌はところどころ床に擦れて赤くなってはいるが、その痛みよりも光秀に頭を撫でられた事の方が嬉しいらしい。構えを身につけたところで初の木刀稽古は終わりかと思いきや、そうでもないようだ。褒められてご機嫌となった光鴇から手を離し、今度は光秀が刀の鞘の先をとん、と自身の横へつく。
「次は実践と行こう。鴇、自分と体格差のある敵と戦うには、どうする」
「たいかくさ……?」
「お前より大きな敵という事だ」
「ときよりおおきい……ころんてさせる?」
「ほう?つまり俺を転ばせる事が出来るという事か」
「……できない」