❁✿✾ 落 花 流 水 小 噺 ✾✿❁︎/イケメン戦国
第9章 龍は一寸にして昇天の気あり
光秀自身も光鴇が最低限の身を守る術を覚えてくれればいいと考え、稽古をつけている事は分かる。親心とは複雑なもので、立派に育って欲しいと思う反面、まだ光臣も光鴇も子供なのだから────と甘やかしてしまいたい気持ちもあった。
(取り敢えず、今は光秀さんに任せよう。光秀さんが無駄な事をした事なんて、一度もないもんね)
光臣の時もそうだったように、光秀はある程度自らの子の実力を見定めて稽古をする。子供達を実はしっかり甘やかしまくっている彼が、可愛がっている末の息子の身の丈に合わない事をさせる訳がない。ここはひとつ夫を信じ、自分は見守ろうと決めた凪が、向き合う光秀と光鴇を映して唇を引き結んだのだった。
「鴇、早速だが稽古を始めるとしよう」
「とき、がんばる!」
凪と光臣、そして政宗の眼差しを受けながら、光秀が目の前にいるちんまりとした子供に向けて告げた。小さな子供用に誂えた樫の木刀は存外重い。それをしっかりと握りしめた光鴇が表情をきゅっと引き締めつつ息巻くと、父が口元へ微笑を乗せる。
「さて、いつまでその意気が続くのやら。まずは木刀の構えからだ。左手を持ち手の下へ添えてみろ」
「ひだり、おてて」
「右手は拳ふたつ分程あけた辺りで軽く添えてみるといい。右ではなく、軸手となる左へ力を加えるようにした方が刀を速く振り抜ける」
「わかった。……でも、ぼくとう、おもい」
「刀はもっと重いぞ」
両手で持っているとはいえ、光鴇の小さな両手には余りあるものだ。眉尻を僅かに下げた光鴇へ、光秀の淡々とした声が響く。
「戦では丸腰になった者から死んで行く。どんな事があっても刀から手を離すな」
「おてて、はなさない」
「ああ。では確かめてやるとしよう」
真摯な表情で光鴇が頷いた。木刀を構える両手へ思い切り力を込めた幼子を前にして、光秀が鷹揚に頷いてみせる。そうして、自らの腰へ差していた白い鞘の刀を鞘ごと抜くと、それで前触れもなく、かん!!と音を立てて幼子の持つ木刀を横へ薙いだ。