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❁✿✾ 落 花 流 水 小 噺 ✾✿❁︎/イケメン戦国

第9章 龍は一寸にして昇天の気あり



新兵達から一度抜けて光秀と手合わせをした光臣が、冬場だというのにこめかみから幾筋も流れる汗を手拭いで拭いながら凪の隣へ腰を下ろした。光秀が光鴇に怪我をさせる事は考え難いが、幼子が勝手に空回って傷を作る可能性は大いに考えられる。どちらかといえばそれが心配なのだと母が面持ちを曇らせた様を見て、光臣もまた苦笑しつつ同意を示した。

「餓鬼の頃の稽古は打ち据えられて強くなる。とはいえ、鴇は今回木刀持つの初めてなんだろ?基礎程度なら怪我の心配もない」

ふと会話へさり気なく割り入って来た声に、凪と光臣がそれぞれ振り返った。道場の入り口から姿を見せたのは政宗であり、久しぶりに目にする相手へそれぞれが挨拶を述べる。

「あ、政宗!去年の節分ぶりだね」
「政宗さん、お久しぶりです」
「久しぶりだな、二人とも。臣、しばらく見ない内にでかくなったんじゃないか?」
「ふふ、まだまだですよ。父上と同じ位にはなる予定なので」
「こいつ、俺を見下ろす気だな」

相変わらず織田との同盟を継続中である政宗は現在、安土を離れて自領へと戻った。そうして出羽城から青葉城へと拠点を移した彼は、奥州の統治を滞りなく担っている。元々距離があるという事もあって、以前のように頻繁に顔を合わせる事は少ないものの、年に一度くらいの間隔で再会している現状だ。

光臣の隣へ胡座をかいた政宗が少年の頭をくしゃりと乱すように撫で、冗談めかした調子で口角を持ち上げた。戯れ合う二人を見て面持ちを綻ばせた凪が改めて自身の夫と子へ意識を戻し、再び心配そうな眼差しを送る。

(鴇くん、大丈夫かなあ……負けん気はあるんだけど、ちょっと泣き虫なところあるし……)

取り分け光鴇は痛みに弱く、自身も痛いのは嫌いだと度々零していた。そんな幼子が、木刀で稽古など早いのでは……とは思うものの、ここは乱世だ。天下布武が為されて来ているとあって、以前よりはずっと諍いは少なくなったものの、完全に物々しい事態がなくなった訳ではない。

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