❁✿✾ 落 花 流 水 小 噺 ✾✿❁︎/イケメン戦国
第1章 武将と五百年後ノープランツアー 前
つい先刻、唇のメイクを乱さないように気遣ってくれていた筈であるのに、今度は躊躇いなく奪われた。隙間からは熱く湿った舌先が侵入し、凪の腔内を蹂躙する。歯列をなぞり、内側の熱を舌先でくすぐられた。絡まった舌を擦り合わせた後、ちゅくと小さな水音を立てて愛を交わす。
「……っ、ふ……ぁ…っ」
軽く出来た隙間から酸素を取り込むと、今度は舌先を吸われた。ちゅうっと愛らしい音が響く割に、触れ合うそこは唾液に濡れて些か淫靡だ。縋るよう伸ばした両手でそっと光秀の浴衣を掴む。片手は顎をすくい上げたまま、もう反対の手は凪の細腰を引き寄せる為に使われ、互いの身が密着した。伏せた瞼がふるりと小さく震えた様を、男の金色が見つめる。口付けを交わす間、目を開けていては怒られると分かっていても、淡く染まる桜色の頬や震える睫毛を見逃してしまうのは、いつだって惜しい。何度、何回交わしたか分からない唇での愛の交わし合いはしかし、満たすどころか更に深くを欲させる。罪深く愛しい熱を十分に堪能した後、光秀は一度角度を変え、柔らかな唇を啄み、そっと凪を解放した。
「は……っ、ぁ……」
「…紅が少し剥がれてしまったらしい。乱れた様も愛らしいが、少々目の毒だな」
「みつひで、さんの…所為…っ」
グロスが剥がれ、アプリコットカラーの口紅が軽くよれてしまった様は何処となく艶めいていて、眩い陽射しの明るい室内と、きっちり着込まれた愛らしい浴衣姿が一糸乱れていないアンバランスさが、何とも言えず欲をそそる。呼吸を返して貰った事で息を整えていた凪は、些かむっとした面持ちで拗ねたように告げた。光秀がくつりと悪びれた風もなく笑って肩を軽く揺らし、顎をすくっていた指先を頬へ這わせた後、乱れた唇をなぞる。乱世の紅よりも艷やかな朱の混じった色合いが、凪元来が持つ桜色のそれを彩り、視線が惹き付けられた。
「ならば俺が責任を取るとしよう。おいで」
言いながら軽く触れるだけの口付けを落とす。優しく触れた柔らかい光秀の唇にも、艶やかなアプリコットカラーが軽く付着していたのを見て、凪の耳朶が紅く染まった。