❁✿✾ 落 花 流 水 小 噺 ✾✿❁︎/イケメン戦国
第1章 武将と五百年後ノープランツアー 前
(和服姿はむしろ見慣れてるのに、格好いい…)
何処までも端麗な容姿と色素の薄い髪や長い睫毛が、浴衣の白地によっていっそう惹き立てられている。今朝方の風呂上がりの姿といい、今の浴衣姿といい、何を着ても絵になるというのはきっとこの事だろう。とくとくと忙しなく跳ねる鼓動が抑えきれず、凪は気恥ずかしそうに視線をそっと外した。
「どうした、今朝も同じような顔をしていたが」
「……う、分かってるくせに」
長い睫毛をふわりと伏せて、白い肌へ薄い影を落としつつ光秀が涼やかに笑う。くすりと聞こえて来る鈴の音のような笑い声に、そろりと視線を上げた凪は、どんな姿でも様になってしまう恋仲を前にして眉尻を下げた。ぽつりと小さな声で反論を紡ぐも、光秀を前にしてしまえば、そんなものは呆気ない抵抗に終わってしまう。緩慢な足取りでソファーを回り込み、凪の傍まで近付いて来た光秀が改めて彼女を見た。乱世では珍しい柄の浴衣はしかし、凪の愛らしい姿をよく惹き立てている。指先を淡い桃色の頬へ滑らせ、そのまま顎をすくい上げると、顔を上げさせた。羞恥に揺れる漆黒の眸を覗き込み、男が金色の双眼を意地悪く眇める。
「残念ながら見当もつかない。ならば、この可愛い唇で語る方が話は早いと思わないか?」
親指の腹が下唇に触れるか触れないかといった微妙な距離感を保ったまま、そこをなぞる。グロスと口紅がよれてしまわぬよう、敢えて触れていないのだと分かっていても、その焦らすような仕草に鼓動が高鳴った。視線を絡め取られてしまえば逃げる事など叶わない。ただ目の前にある端正な男の顔を正面から見つめた状態で、凪は困窮極めた面持ちのまま眉尻を下げ、やがてぽつりと告げる。
「………格好いい、です」
「素直な良い子には、ご褒美が必要だな」
「え、……んっ…」
鼓膜を揺らした微かな声に光秀が吐息混じりの笑いを零し、甘く掠れた声で囁きを落とした。小さな戸惑いはすぐに唇と共に呑み込まれ、重なり合った柔らかなそこから優しい熱が伝えられる。