❁✿✾ 落 花 流 水 小 噺 ✾✿❁︎/イケメン戦国
第9章 龍は一寸にして昇天の気あり
─────────────…
正月の儀式を一通り終え、城下町全体が常と変わらぬ日々を送り始めている睦月の下旬。一部の山間部ではとうに雪化粧を帯びている、酷く冷え込むこの時期に、凪と光秀、そして長男の光臣と次男の光鴇は、安土城内にある道場にいた。
元服したばかりの年若い兵や、あるいは新しく織田軍の兵として仕官した者達へ主に基礎を教え込むこの場は、数年前に大阪城へ居を移した信長の下命により、慶次の管轄となっている。現在も場内では新兵達の稽古が行われている訳だが、残った半分程の場所を使い、光秀とちんまりした幼子がある程度の距離をあけて向き合っていた。気合い十分、とばかりに息巻く光鴇の姿を、端にいる凪が心配そうに見つめる。
「鴇くん、本当に大丈夫?この前まで受け身の稽古だったのに、急に木刀なんて……」
「だいじょぶ。とき、つよいおのこだから、できる!」
何故このような状況になったのか。それはおよそ二週間近くに渡る視察任務を終え、久々に安土へと戻って来た光秀が光臣の成長具合を確認する為、道場へ足を運んだ事がきっかけだ。光臣は現在、慶次の下で様々な稽古を積んでいる最中であり、視察から戻って来る頃には父から一本取って見せると豪語していたのである。
尚、結果としては惜しいところまではいったものの、やはり父は偉大であったと再認識する形で幕を下ろした。その様子を非番であった凪が、光鴇を連れて見学していた際、幼子のいつもの癖である【あにうえだけずるい!】が発動し、ときもちちうえとけいこ、する!という事で現在に至る。
「母上、御安心ください。父上も木刀を持たせたからといって、急に打ち合いをする訳じゃありません」
「うん……勿論光秀さんの事はちゃんと信頼してるんだけど、鴇くんが無茶に振り回したりしないかそっちが心配で」
「それはまあ……否めませんけどね」