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❁✿✾ 落 花 流 水 小 噺 ✾✿❁︎/イケメン戦国

第8章 水魚の交わり



彼女の黒髪は艶やかであり、肌は絹の如くきめ細やかだ。先日贈られた空木の押し花を見た折にも感じたように、きっと真白な装束がよく映えるに違いない。

「お前とこうして共に過ごせるのならば、体裁など必要ないとも思うが……」
「?」
「やはり白無垢をまとったお前を見られないというのは、中々に惜しい」

自然と唇から音になった言葉もまた、光秀が抱く本音の一端だ。真白な花嫁装束をまとい、唇と頬に紅を差すその姿は、さぞかし目映くこの目に映る事だろう。結婚という形式的なものを交わさずとも、今のままで十分過ぎる幸福を彼女から貰っている。
だが、生涯で一度きりとなる晴れの日。自分の隣で真白な装束に袖を通し、幸せそうな笑顔を浮かべる姿をこの目に焼き付けたいとも思う。人とは欲深い生き物だ。ひとつ幸福を知る度に、その更に先の幸福を求めたがる。
頬へあてがっていた手を静かに下ろし、凪の小さな手をすくい上げた。そうして、睫毛を伏せながらその指先に恭しい所作で口付けを落とす。

「いずれ刻が来たら、お前に一等似合う白無垢を贈らせてはくれないか」

光秀は、守れない約束は交わさない。その事実を知っている凪が、男の真摯な言葉を耳にして音も無く息を呑む。黒々した大きな眸を溢れんばかりに瞠り、ゆらゆらと揺らした。やがて遅れてじわじわとせり上がって来る喜びを露わにするかの如く、大輪の華を光秀の目の前で咲かせる。

「はい、喜んで」

しっかりと頷いた彼女の腰をそっと抱き寄せ、向かい合う形で包み込んだ。応えるように腕を回して来る凪の、その暖かな熱を得難いものと噛みしめる。抱きしめた折、しっくりと馴染む感覚に浅い吐息を溢し、彼女の背をひと撫でした。未だ腕を回した状態で先程よりも近い距離感で見つめ合うと、光秀が不意に悪戯っぽく双眸を眇める。

「では早速、本当の夫婦になった時の為の練習をしておくとしよう」
「どんな練習ですかそれ!?」
「夫婦ならば、互いの思っている事がおおよそ分かる筈だが」

突拍子もなさ過ぎる話に驚いたのか、凪が目を丸くする。

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