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❁✿✾ 落 花 流 水 小 噺 ✾✿❁︎/イケメン戦国

第8章 水魚の交わり



例えば光秀が茶葉の変化に気付かなくとも、きっと彼女は嬉しそうな様を浮かべて、共に揃いの湯呑茶碗を傾けていたのだろう。

(………そうか)

不意に、得心した様子で光秀が内心零す。何故こんなにも凪の元へ帰りたいと思ったのか。その小さな疑問がするりと紐解ける。無論、彼女を心から愛しいと思うが故という事実に間違いはないが、それだけでなく。

「今日はふきのとうの天ぷらと、ぜんまいと油揚げの煮物ですよ。それからコシアブラのおひたしもあるので、凄く健康的な山菜尽くしです」
「ほう……?道理で、お前が好物を前にした仔猫のように目を輝かせていた訳だ」
「えっ!?なんかその言い方だと、私食い意地張ってるみたいに聞こえるんですけど……」
「そんな事はない。もっとも、仮に食い意地を張っていようと俺には愛らしく見えるんだが」
「女子としては滅茶苦茶複雑です……」

むっとわざとらしく眉根を寄せる凪の頭を優しく撫でやり、光秀が可笑しそうに笑った。その様へつられるようにして彼女も笑うと、周囲の空気が華やぎ、明るさで満ちる。

「お前の傍は心地が良いな」
「……?どうしたんですか?急に」
「いや。……時に凪、先程結婚について訊ねていたが、興味があるのか?」

傍で茶碗を傾けて、同じ刻を過ごす。夕餉の献立を語り合い、戯れに言葉を投げかける。その当たり前とも言える日々のひとつひとつが、光秀にとって凪の元へ帰りたいと心から思う理由だという事を悟った。凪の傍は心地が良い───その言葉は紛れもない光秀の本心だ。手にした茶碗から、凪に似た暖かい熱が伝わって来る。幸せを体現するぬくもりや香りに、光秀の目元が知らずと和らぐ。

「ず、ずるい!今絶対話逸らしましたね……!?」
「まさか。ただお前の意見を訊きたいと思っただけだろう」
「う……」
「俺が先に答えている以上、俺にも訊ねる権利があるとは思わないか?」
「くぅ……!!なんか正論っぽい!」

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