❁✿✾ 落 花 流 水 小 噺 ✾✿❁︎/イケメン戦国
第1章 武将と五百年後ノープランツアー 前
毛先の巻きが強めのポニーテールアレンジは、乱世ではなかなか出来ない為、鏡に映ったそれを満足げに見た後、凪が背後を振り返る。着物用のハンガーには、先刻選んだ浴衣がかけられていた。
───お前にはこれが似合いだろう。
そう言って光秀自らが選んでくれた浴衣へ着替えるべく、小袖の帯を解く。彼方が気を回して、浴衣の下に着ても問題ない色合いのシンプルな下着を用意してくれていた為、襦袢ではなくそちらを身につけた。その上へホライズンブルーの地の色に、レトロな大柄の桔梗の模様が散りばめられている浴衣をまとう。帯は光秀が普段まとっている長布と同じ色であり、そこに白い帯飾りをつけた。着物の地の色と同じ色の鼻緒がついた下駄へ裸足のままで履き替え、裾を整えると支度がようやく完成する。
(浴衣の色も桔梗の柄もモダンレトロな感じで可愛い…!)
そこへ浴衣と同じ色合いの巾着を手にし、メイク直し用の品を幾つかまとめて入れ、ハンカチや鏡などと共に収納すると、再度鏡を確認して髪型などを軽く触った。光秀が選んでくれた浴衣は、凪の肌や雰囲気によく合う。桔梗の柄だという点も純粋に嬉しく、おかしいところがないか念入りに確認した後、ドレッサールームを出た。
「光秀さん、お待たせしました…!」
おそらく光秀はとうに準備を終えているだろうと些か慌てて声をかけると、彼はソファーへ腰掛けた状態で凪の支度を待っていたらしい。幾分焦燥の滲む声色に瞼を伏せてくすりと笑った男は、静かに立ち上がると後方に立つ彼女の方へ振り返った。
「そう急ぐ事もない。女の支度に刻が必要である事は、皆承知している」
振り返ったその姿に目を奪われ、凪は双眼を思わず瞠る。白地に紺色のさり気ない桔梗柄、帯は水色で、肩には袖を通さない水色の夏用の羽織をかけたその姿は、普段とは些か異なる雰囲気をまとっているように感じられて、ついつい目が離せない。