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❁✿✾ 落 花 流 水 小 噺 ✾✿❁︎/イケメン戦国

第8章 水魚の交わり



このまま彼女の表情を曇らせたままになどしておく事は出来ず、かと言ってその場凌ぎのような事を凪に伝えたくもないと考えた光秀が、改めて思案する。

(……元々、誰かと連れ添い生きる事を望んでいた訳ではなかったが、お前とこうして過ごすひと時は俺にとって、些か居心地が良すぎる)

生き方を変えられない自分は、例えば凪と祝言を挙げたとしてもやはり、幾度も寂しい思いをさせる事だろう。此度のようにひと月半帰れない日もあれば、更に長い期間彼女を一人にさせるかもしれない。命の危険がないとは正直言いきれず、心労も心配も数多かけると分かりきっている。凪がどんな気持ちで自分の帰りを待っているのか。それを考えるだけで、他の事では一切痛まないこの胸が軋み、痛みを覚える。

光秀が一度口を噤んだ様を見て、凪がやはり心配そうに眉尻を下げた。その様を認めた瞬間、繋いでいた彼女の手を離し、光秀が相手の頬へ片手を触れさせる。撫でるでもなく、くすぐるでもなく、ただ低い自らの温度を伝える為に頬へ手のひらをあてがった。

「俺にとっての結婚……いや、結婚相手は、唯一帰りたいと思う場所だ」
「!」

穏やかな声色で語りかけると、凪が些か驚いた様子で目を瞠った。その大きな眸に自身が映っている様を見て取り、光秀が柔らかく微笑する。

「以前は先程言った通りの認識だった事は間違いない。だからこそ、必要としていなかったんだが」

光秀が発する一音一音を聞き逃さないよう、彼女が真摯に耳を傾けてくれているのが分かった。驚愕から喜びへと感情が移り変わっていく様が、頬の朱色で見て取れる。自分の言葉ひとつでこうも鮮やかに色づく様を見ると、今すぐ抱き寄せて口付けたい衝動に駆られるなど、きっと凪は知りもしないのだろう。

「お前を愛した事をきっかけに、そうではないと思い知らされた」
「光秀さん……」

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