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❁✿✾ 落 花 流 水 小 噺 ✾✿❁︎/イケメン戦国

第8章 水魚の交わり



心の中で零した一言に、光秀が微かに眸を瞠った。ごく自然に湧き上がったその言葉が、自分にとってどれ程の意味を持つのか。それを知っているからこそ、光秀は今一度瞼を伏せて穏やかな微笑を乗せる。やがて瞼の奥に隠した金色を覗かせた男は、最愛から送られた素直な言葉を指でなぞった後、空木の押し花へ唇を寄せたのだった。

「俺も、早くお前の元へ帰りたい」




凪の文が光秀の手元に届いたその四日後、予定通り光秀等と家臣団は安土へ無事帰還を果たした。否、厳密に言えば本来より少しばかり早めの帰還になったというべきか。何せ当初の予定では、四日後の夜に安土入りする筈だったものを、まだ陽が高い内に城下町へと足を踏み入れたのだから。

「こんな陽が高い時間からお仕事終わりなんて、珍しいですね」
「信長様から暫し身体を休めるよう命じられた。後処理の雑務にも一切手をつけるなと仰せでな」
「ふふ、長旅な上に予定がずれ込んだりしたから、信長様も光秀さんを気遣ってくれてるんですよ」
「御自分は然程休まれないというのに、困った御方だ」

登城する前、御殿へ立ち寄った光秀は凪と一度顔を合わせていた。偶然かあるいは必然か。凪も今日は非番であったらしい。信長へ報告に向かう光秀を一旦は見送った彼女が、いつもより遥かに早い恋仲の帰宅に驚くのも無理はなかった。すべては主君の粋なはからいというやつである。

「とはいえ、せっかく御館様から頂いた非番だ。長らく会えなかった分、たっぷりとお前を甘やかすとしよう」

御殿で雑務に多少手をつける程度、何も言わなければ気付かれやしないだろう。だが今ばかりは主君の命へ忠実になり、久方振りに会えた愛しい恋仲を堪能する事に決めた光秀が、凪の身体を抱き寄せる。自らの胸に彼女の華奢な身体を抱き込み、腕にそっと力を込めた。そうすれば共に暮らす事ですっかり凪に移ってしまった、冴え冴えとした薫物の香りに混じり、彼女自身の甘い芳香が鼻先をくすぐる。

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