❁✿✾ 落 花 流 水 小 噺 ✾✿❁︎/イケメン戦国
第8章 水魚の交わり
彼女が綴ってくれた文の内容は、なんて事のない日常の報告だ。合間合間に、凪を構う他の武将達の名が出て来る事が若干気にかかるのはさておき。文の中でも、凪は光秀の身を案じていた。食事は摂っているか、しっかり眠っているか、仕事のし過ぎで無理をしてはいないか。文章の端々から感じる凪の想いに、目を通す光秀の口元も自然と綻びを帯びる。
(押し花というのか、この平たい花は)
真っ白な空木の花が庭先に咲いているのを見て、光秀さんみたいだなって思って押し花を作ってみました。かれこれひと月以上もかかった自信作です!書物を読む時とかに、挟み紙代わりとして使ってもらえたら嬉しいです。
一枚目の文の終わりにそう綴られてあったのを見て、光秀が改めて空木の押し花を手にした。ちなみに、空木の花言葉は【秘密】です。もうそのまま光秀さんみたいですね!そんな一文が添えられており、ついくすりと笑みを零す。
「確かに言えない事も数多あるとはいえ、お前には存外心の内を曝け出しているつもりだったんだが」
どうやら凪の中では未だ、光秀は秘密の多い人物扱いらしい。まあ確かに完全には否定し切れはしないのも事実だ。この心の内を本当の意味で曝け出すには、光秀が抱いている彼女への愛情は深く底がなさ過ぎる。
凪がどのような表情でこの文を綴ったのか。紙面をこうしてなぞるだけで、それが鮮明に脳裏へ浮かぶようだ。弾んだ明るい声まで共に聞こえて来そうな文はしかし、二枚目の終わりに近付くと言い知れぬ寂しさを光秀の胸に去来させる。やがて…────。
気を付けて帰って来てくださいね。早く、光秀さんに会いたいです。
その一文をなぞった瞬間、真白な紙を持つ指先がひくりと震える。飾らないたった一言がこうも嬉しく、そして切なさを掻き立てるなど、凪を愛するまでは知る由もなかった。
(……ああ、俺もだ。一日でも早く、お前の元へ)