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❁✿✾ 落 花 流 水 小 噺 ✾✿❁︎/イケメン戦国

第7章 おしえて、ちちうえ!



ふと、光鴇が小さな手を自らの心の臓辺りに、とんとんとあてる。

「ときのなかにもかみさま、いる?」
「さて、どうだろうな。だがお前も臣も、母が腹を痛めて産んだ命である事に変わりはない。ならば、神がいようといなかろうと、慈しむのは当然の事だ」
「光秀さん……」
「己を信じ、自らを尊び、この先も生きるといい」

片手で光鴇の頭を優しく撫でやると、幼子が嬉しそうに面持ちを綻ばせた。光秀が子供達に伝えたい事が、顕著に凪の胸を衝く。慈しむような穏やかな男の眼差しが光臣と光鴇を映した後、最後にそっと凪へ向けられた。愛おしいものを見る柔らかな彼の双眸は、何年経っても欠片程も褪せる事はない。光秀の眼差しへ応えるよう笑みをそっと浮かべれば、彼もまた優しく微笑する。

「とき、まいにちときのこと、いいこいいこってするね」
「ああ、そうするといい」
「あにうえも、ちゃんといいこいいこってしてね」
「……そうだな。俺も自身を労る事を覚えるようにする」

光秀が持ち出してくれた話題のお陰で、すっかり光鴇の頭からは当初の疑問は抜け落ちてしまったらしい。とてつもなくほっこりとした、穏やかで尊い心地になる話ではあったが実際のところ、幼子の疑問は何一つ解決していなかった。ついうっかり凪まで忘れそうになっていたのを、ふと思い出して光秀を見れば、彼は何処となく悪戯っぽい笑みを浮かべ、光鴇に気付かれぬよう人差し指を口元へあてがう。

(話題のすり替えもお手の物って事ね。さすが光秀さん)

やはり子供達の父は何枚も上手という事なのだ。凪が少しばかり可笑しそうに、くすくす笑って肩を揺らした。程なく、光秀は幼子の口端についた餡を親指で拭い、自ら舌先でぺろりと舐めながら、仕上げとばかりに声をかける。

「湯浴みを済ませていなかったな。久々に俺と入るか、鴇」
「!ちちうえとゆあみ、する!」

光鴇が嬉しそうに頬を綻ばせ、父の膝から下りる。次いで光秀も布擦れの音を立てて立ち上がり、小さな片手を自然と繋いだ。

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