❁✿✾ 落 花 流 水 小 噺 ✾✿❁︎/イケメン戦国
第7章 おしえて、ちちうえ!
「おしえて、ちちうえ。なんで?」
「お前は何故だと思う?」
「とき、おなかいいこいいこしたら、あかご、できるっておもってる」
「ほう?あながち間違いでもないな。お前や兄が母の胎に入っていた頃は、よく撫でていた」
「ちちうえ、いっぱいいいこいいこ、した?」
「ああ」
(なにこのやり取り、尊い……癒やし……)
当初光鴇に質問を投げかけられた際にはどうしたものかと思ったが、光秀と幼子のやり取りはとても心暖まるものであった。大きな腹を抱えて動きにくそうにしていた自分を、光秀がとてつもなく甲斐甲斐しくしてくれた事も、内側から元気に蹴って来るその衝動を堪える自身を想い、寝ずに腹を撫でてくれた事も、すべて凪にとっては愛おしい思い出だ。
「時に鴇、甘味は食わないのか?先程から手が止まっているようだが」
「たべる。……あむっ」
「口の周りに粉がついているぞ」
「とき、おっきなおくちで、あむってたべる」
「食えばその分大きく育つ。しっかり噛んでお食べ」
「うんっ」
食べかけの大福へ話題を移された事に気付いているのかいないのか、光鴇は父に軽く口の周りを拭われ、いたくご満悦だ。あまりにも自然に幼子の疑問から話題をすり替えた、光秀の鮮やかな手腕に感心の眼差しを凪と光臣が向ける。このまま穏やかな団らんのひと時に戻るだろう────光鴇以外の全員がそう考えた、その時。
「!ときのしつもん、こたえてない!」
途中までにこにこと大福を頬張っていた光鴇が、はっと目を丸くして声を上げた。食い気の多い幼子の関心をそこまで惹きつけるとは、相当気になっているのだろう。光秀がくつりと喉奥を低く鳴らし、口元を綻ばせる。
「おや、気付かれたか」
「とき、だまされない!」
両手で大福を持ちながら、栗鼠のように膨らんだ頬をもぐもぐと動かした光鴇が、不服そうに眉間をむっと顰める。光秀が机上に置かれた湯呑茶碗を手に取り、幼子へと飲ませてやった。