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❁✿✾ 落 花 流 水 小 噺 ✾✿❁︎/イケメン戦国

第7章 おしえて、ちちうえ!



そんな苦悶の面持ちを浮かべる妻を目にし、光秀が至極可笑しそうに口角を持ち上げて茶々を入れる。

「どうした凪、母ならば仔栗鼠のささやかな疑問に答える程度、わけないと言っていただろう」
「光秀さん!絶対遊んでますね……!?」
「なに、妻と子の仲睦まじい姿を愛でているだけだ」
「愛でてないで助けてください……!」
「それは出来ない相談だ。何せ、俺は胎に子を宿した事がないのでな」
「くぅ……!!」

(また父上の母上いじめが始まったな……)

数え歳十三にして、既に何かと達観したところを持つ光臣が、父母の恒例とも言えるやり取りを目にして内心で溜息を漏らした。この明智家において、光秀が凪をいじめる光景は決して珍しくはないのだ。困った父だ、と考えながら光臣が何気なしに光秀の方を見れば、ふと視線がぶつかり合った。父の日頃の行いを見ていれば、次にどんな言葉が飛び出して来るか想像に易い。自らへ要らぬ火の粉が降り掛からないよう、光臣が先手とばかりに口を開く。

「鴇、父上ならばお前の疑問にも答えてくれる筈だ。訊いてみるといい」
「!ちちうえ、ほんと?」
「やれやれ、お鉢が回って来たか」

兄に誘導された幼子が、母に詰め寄っていたその身をくるりと父へ向けた。きらきらと再び無垢な眼を向けられてしまえば、光秀とてそれを無碍にする事も出来ない。さして困った風でもなさそうに瞼を伏せた男とは対象的に、凪はほっと胸を安堵で撫で下ろし、光臣を見る。

「ありがとう臣くん……助かった……」
「お任せください」

父によく似た風貌で笑みを浮かべた光臣が、何処となく自信を覗かせて言い切った。そんな二人を余所に、光鴇は早速光秀の元へ小走りで向かう。

「ちちうえ、だっこ」
「ああ、おいで」

机上についていた頬杖を解き、光秀が幼子のちんまりとした身体をひょいと持ち上げて胡座の間へ収めた。いつもの定位置に座り、背を父の胸へ預けた光鴇が光秀の方を見上げる。

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