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❁✿✾ 落 花 流 水 小 噺 ✾✿❁︎/イケメン戦国

第6章 人酒を飲む、酒酒を飲む、酒人を飲む



透明な酒で満たされた器を一度膳へ置いた後、光秀が傍らに銚子を戻してやりながら、凪の分の盃を取って渡す。ありがとうございます、と愛らしい笑みを浮かべて礼を紡いだ彼女が軽く酒器に口をつけるのを見て、男もまた盃を傾けた。

「そういえば……お酒ってその人の本性が見えるってよく言いますよね」
「ん……?」

凪がふとぽつりと思い出したように零す。酒に関しては古来より様々な歌人達が歌を残している。それは季節を象徴していたり、時には世の無情や男女の中を比喩したものなど種類に富んでおり、酒というものが遥か昔から今日(こんにち)まで、人の世へ密接な関わり合いを持っているものだという事を表していた。

とはいえ、光秀は酒の味を楽しむ事も、それで風流を覚える事もない。著名な歌人達が残した歌を知識としては知っていても、その意を心から汲み取る事は出来なかった────凪に出会い、彼女を愛するまでは。

「やっぱり、酔うと性格が変わっちゃう人とかがいるから、そう言われたりするのかな」
「以前読んだ医学書には、酒は人の理性を司る部位を鈍らせる効果があると書かれていた。一般的なその認識も、おそらくそこから来るものだろう」
「えっ、光秀さん医学書も読んだりするんですか……!?」

彼女の疑問へ、光秀がさらりと答えを与える。うっかり聞き流しそうになったものの、彼の口から普段は聞かないような単語が出て来た事へ驚愕し、凪が光秀を振り仰いだ。丸々と見開いた漆黒の双眸に男の姿が映り、その形の良い唇に笑みが乗る。

「昔、世話になっていた寺で夜長の共にしていただけだ」
「そうだったんですね……でも、確かにその書物の通りかも。お酒を飲むと少なからず開放的になりますし。まあ光秀さんは全然酔いませんけど」

光秀の新たな一面を知る事が出来た、と凪が嬉しそうに面持ちを綻ばせた。次いで納得した様子のまま頷き、ちらりと男の端正な面(おもて)を見つめる。

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