❁✿✾ 落 花 流 水 小 噺 ✾✿❁︎/イケメン戦国
第6章 人酒を飲む、酒酒を飲む、酒人を飲む
光秀が箸を置き、盃へと手を伸ばす。くい、と言葉通り酒で喉を潤す姿は、思わず見蕩れてしまう程に美しい。そんな完璧な恋仲に対し、自分は一体どんな顔をしていたのか。ぎょっと目を丸くした凪が、慌てつつ片手で自身の頬へ触れた。安土城下町中の娘達から羨まれる、見目の良過ぎる恋仲を持つというのも中々に大変なのである。
凪の慌てようを目にして、男が少し可笑しそうに口元を綻ばせた。片手に盃を持ったまま彼女の腰をくいと引き寄せて、酒でほんのり湿った唇を凪の頬へ軽く触れさせる。
「さて、どうだろうな」
「い、意地悪するなら、もうお酌しません」
「おや、それは困った。せっかく傍にお前が居るというのに、手酌では味気無い」
光秀が問い掛けに曖昧な返答を述べると、彼女は不服と言わんばかりに眉根をわざとむっとして顰めた。本当は凪にその気などまるでないと分かりきっている男がしかし、降参とばかりに肩を竦める。
「注いでくれるか?」
「ふふ、どうぞ」
穏やかな声色で求められると、彼女が柔らかい鈴の音のような笑いを零した。そうして凪が銚子を手にして光秀の酒器を満たした後、自身も盃を傾ける。こんな他愛もない些細なやり取りを交わす事が出来るのも、小さな二人きりで開く酒宴の特権だ。人前では恥ずかしいやり取りも、行為もすべて気にする事なく浸る事が出来る。
「皆でお酒飲んで騒ぐのも楽しいですけど、光秀さんと二人きりでゆっくりするのは、やっぱり特別です」
「城の宴だと、途中で何かと茶々が入るからな。取り分け、酒の入った秀吉に絡まれると面倒だ」
「光秀さんがからかったり、悪戯したりするからですよ」
「馬鹿がつく程生真面目でお人好しなあの男は、そうして時折羽目を外すくらいが丁度いい。矛先が向けられるのは御免被りたいところだが」
秀吉は酒が入ると説教くさくてかなわん、とは信長の談であるが、その意見には割と多くの武将が賛同している。