❁✿✾ 落 花 流 水 小 噺 ✾✿❁︎/イケメン戦国
第6章 人酒を飲む、酒酒を飲む、酒人を飲む
明らかに確信的な様子で問うて来る光秀の綺麗な笑みを前にして、凪が断る術など持ち合わせている筈もない。わざと少し怒った風に眉根を寄せつつ、箸を男の手からするりと抜き取るように受け取り、一口大に切られたチヂミを箸先で持った。タレを適度につけて、片手を添えながら男の口へ運ぶ。
「辛さの具合とか、大丈夫ですか?」
「問題ない。平たくて食べやすいな。噛む回数も少なくていい」
「お弁当として持ち歩くのも春先なら有りかも?」
「兵糧にすれば、兵達も皆喜ぶだろうな」
咀嚼して飲み込んだ後、光秀がいつもの感想を述べる。味云々に関しては今更なので、凪も気にしていない。平たくある意味でかさ張らないチヂミは、確かに持ち運びには便利かもしれない。現代から凪と同じくタイムスリップして来た親友が聞いたら確実に突っ込まれるやり取りも、二人にとっては幸せな日常の一部なのである。
「お前も食べるといい。箸を貸してみろ」
「食べさせてくれるんですか?」
「甲斐甲斐しい連れ合いには、それ以上の甲斐甲斐しさで返すのが当然だとは思わないか?」
凪が持つ箸を受け取りつつ、光秀が口角をゆるりと持ち上げた。先程食べさせてもらったお返しとばかりに、彼女がしていたようにチヂミを一切れ箸先で掴み、タレを適量見様見真似でつける。そうして凪の唇に近づければ、彼女がそれを食べた。
(うう…、やっぱり胡麻油が欲しい……けど初めて作った割にはよく出来てるかも!家康の漬物もいい感じのアクセントになってる。今度お礼に辛さ増し増しで作ってあげようかな)
ニラと家康自作漬物の歯応えが中々程良く、タレとの相性もばっちりである。適度な辛さで食欲も刺激されるので、つい酒と一緒に箸が進みそうな一品だ。満足気な様子で凪が面持ちを綻ばせているのを見て、光秀もくすりと小さな笑みを零す。
「お前のその表情を見ているだけで、今宵は酒が進みそうだ」
「えっ……私、そんな変な顔してました!?」
(は、恥ずかしい……!)