❁✿✾ 落 花 流 水 小 噺 ✾✿❁︎/イケメン戦国
第6章 人酒を飲む、酒酒を飲む、酒人を飲む
ゆるりと口角が持ち上がっている様は愉しげであり、凪が差し出されるままに大根を一口食べた。しゃく、と瑞々しい音が響き、よく冷やされた野菜に絡む、味噌と自家製マヨネーズの合わせダレが舌を楽しませてくれる。
「大根瑞々しくて美味しい……じゃなくて!余所事なんて考えてませんからね?故郷にある調味料、何とかして作れないかなって政宗に…────」
「おやおや、他の男の名を紡ぐ悪い唇はこれか?」
「んぅ」
凪が言い切るよりも速く、片眉を実にわざとらしい様子で持ち上げた光秀が、再び大根スティックを彼女へ食べさせた。味噌マヨをつけずともほんのりとした野菜そのものの甘さが感じられてとても美味しいのだが、今はそれを悠長に味わってる場合ではない。咀嚼した大根を飲み込んだ後、隣に座る光秀をちらりと見た。
「……もしかして、ヤキモチ妬いてくれました?」
凪自身、何も意図してなどいないが、仮にそうだとしたら普通に嬉しいし、愛おしい。窺うような彼女の眼差しを受け、光秀が特に憚る事なくあっさりと肯定した。
「当然だろう。今宵はもうお前の唇から、俺以外の男の名を聞く気はない」
言葉だけで溶けてしまいそうな甘いそれに、凪の胸が鮮やかに色付く。綺麗に弧を描いた唇と、熱を帯びた金色の双眸に見つめられてしまえば、もう為す術はない。盃を置いて光秀へ向き直った彼女が、何処となく悪戯っぽい表情で首を傾げた。
「じゃあ、もし言いそうになったらどうしますか?」
「そうだな……お前はどうされたい?」
「どうされたいと思います?」
光秀が質問に質問で返してくるのはいつもの事だ。けれども今夜は凪とて簡単に白旗を挙げる気はない。更に質問で返すと、男が些か面食らった様子で眸を瞬かせた。
「ほう…?俺が留守にしている間に、賢くおつむを使えるようになったらしい」
「私だって、いつもやられっぱなしじゃないですからね……!」
感心したような声で呟いた光秀を前に、凪が得意気に言い返した。